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『モノを売って、はい終わり』の製造業は苦しい。コロナ禍で顧客から見放されない会社とは?

DMG森精機もデジタル戦略に本腰を入れている。顧客とのリモートによる出荷前立ち会い検査をはじめ、大手通信キャリアとの第5世代通信(5G)活用の共同実験や、会員制オンラインサービスを相次いで始動した。近々、仮想ショールームも開設するなど多面的に施策を展開。背景には、新型コロナウイルスの感染拡大を契機とする製造業の働き方の変化や、生産工程の自動化・省人化ニーズの高まりがある。

「5年前に同じようなことをやろうとしたが、あるメーカーの幹部から『現地現物でやらないとだめだ』と怒られた」。森雅彦社長がこう振り返るのは、顧客にデジタル立ち会いを提案した際のこと。製造業には従来から現地現物の発想があり、顧客が発注した機械の立ち会いもDMG森精機の工場に直接出向いて行われていた。しかし新型コロナ感染防止策に伴う外出制限により、それが不可能となる顧客も出ており、今では「背に腹は代えられなくなっている」(森社長)状況だ。

デジタル立ち会いは、DMG森精機の工場と客先をオンライン会議システムでつなぎ、出荷前の機械の外観や加工精度などを見せる仕組み。顧客は同社工場に出向かずに、気になる点などをリアルタイムで確認でき、立ち会い出張の時間や費用を不要にできる。4月に実施した英国企業からは「見たい点を確認でき、非常に良かったと評価いただいた」(太田圭一常務執行役員)という。

5G技術の活用にも動きだしている。工作機械内のカメラ画像を基に切りくずの堆積場所と量を人工知能(AI)で推定し、最適に除去する技術への5G導入実験をKDDIと開始。NTTコミュニケーションズとは、協働ロボットを搭載した無人搬送車(AGV)をローカル5Gで遠隔操作する実験を始めた。

いずれも生産工程の自動化ニーズに対応するサービス・技術開発が目的。ここに来て、新型コロナの感染拡大により「自動化への追い風はさらに強まっている」(森社長)と捉え、製品の5G対応をテコにその需要を取り込む方針だ。

オンラインによるアフターサービス体制も強化。同社の機械を購入した顧客が、ウェブを通じて保有機の関連情報の確認や修理の要請を行える「my DMG MORI」を開始した。

また商品訴求の場として、デジタルショールームも近日中に公開する。顧客がウェブを通じて24時間365日訪問でき、写真や動画で工作機械や周辺機器などを見られるようにする。

コロナ禍で企業の働き方の見直しや生産設備の自動化ニーズが強まり、収束後もこの動きは続くとみられる。DMG森精機はデジタル立ち会いについて映像や音声の伝え方を「今後さらに強化する」(同)など、デジタル戦略を深化させ、顧客の新規開拓や囲い込みにつなげる構えだ。

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