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国循がオープンイノベで進める次世代医療都市がすごい!

国循がオープンイノベで進める次世代医療都市がすごい!

OICには医師や研究者が立ち寄って自由に対話できる空間「サイエンスカフェ」を整備した

技術シーズ事業化加速

国立循環器病研究センター(国循、大阪府吹田市)が、北大阪健康医療都市(健都)に移転して1年を迎えた。循環器病を対象とする唯一の国立高度専門医療研究センター(ナショナルセンター)として、健康寿命の延伸や地域医療の充実、医療人材の育成を図る。企業とのオープンイノベーションを活性化し、最先端医療で世界をリードする。(大阪・中野恵美子)

循環器病の診断・治療・予防一括開発

病院・ラボ集約

JR岸辺駅(大阪府吹田市)の改札から伸びる歩道を直進すると、国循の入り口に着く。路線に沿って東西約3・5キロメートルに広がるのが健都だ。吹田市と大阪府摂津市にまたがる約30万平方メートルの土地に、国循のほか吹田市民病院や駅前複合施設「ビエラ岸辺健都」、高齢者向けウェルネス住宅などが立地する。

健都に移転した国循

国循は2019年7月の移転後、病院、研究所、オープンイノベーションセンター(OIC)を集約した。病院の手術室には、外科手術とカテーテル治療を同時に実施できるハイブリッド手術室を4室整備。脳腫瘍などを治療する高精度な放射線治療装置「ガンマナイフ」をはじめ最先端機器がそろう。研究所では循環器疾患に関する診断、治療、予防法の開発を目指し、病院と密に連携しながら基礎研究に取り組んでいる。

最大の特徴は研究者と医師の交流を促すOICだ。企業や大学など17機関が入居している。立ち寄って自由に対話できる空間「サイエンスカフェ」や、企業との共同研究拠点「オープンイノベーションラボ」を整備した。産学連携本部が中心となり、企業や大学との連携を通じて臨床ニーズや研究成果に基づく技術シーズを事業化、次世代の医療機器や医薬品の創出につなげる。

認知症の早期発見実証

OIC入居企業にはヘルスケア分野を新規事業に位置付け、国循と技術交流する企業も多い。ジェネリック医薬品(後発薬)メーカーの東和薬品は、認知症や軽度認知障害(MCI)の予防につなげる独自の健康食品やサプリメントの開発を目指す。国循が植物由来成分の認知症治療効果について研究を進めており、成果の事業化を加速する。

また健都は、サービスや製品の実証フィールドとして注目を集める。国循は1989年から、都市における疾患の要因と発症の関連を調査するコホート研究「吹田研究」を実施してきた。循環器疾患につながる要因を示し、さまざまな指針に引用されている。

吹田研究を統括した小久保喜弘健診部医長は「健都で科学的証拠に基づいた重症化予防を進め、新たな保健指導のあり方を模索したい」と方向性を示す。

成果は健都モデルとして各都市への横展開を目指す。隣接するマンションではNTT西日本やNTTドコモと連携し、健康管理システムの運用を始めた。入居者に血圧測定器や体重・体組成計を提供し、測定データは国循にリアルタイムで共有される。日々の生体データを蓄積し、循環器疾患の予防や早期発見につなげる。

パナソニックは健都内に新設したサービス付き高齢者向け住宅で、テレビやトイレなどに搭載したセンサーを通じてMCIの早期発見について検証する。2022年3月にかけて家電の操作やドアの開閉状況といった生活習慣と、認知機能との相関を国循と医学的に分析する。

国循脳神経内科の猪原匡史部長は「一人で住む高齢者も、普段の生活を送るだけで認知症を予測でき、受診のきっかけをつくれる」と意義を説く。

難病治療―スタートアップ創出

研究成果に基づいたスタートアップも生まれた。リードファーマ(大阪市淀川区)は遺伝子変異が原因とされる難病に有効な核酸医薬を開発する。血中の中性脂肪が著しく高く膵炎(すいえん)を繰り返す難病「原発性高カイロミクロン血症」を対象に、疾患の原因となるたんぱく質の生成を抑制する。

和田郁人社長は「研究設備などハード面のほか、産学連携本部を通じ弁理士との相談などソフト面もサポートを受けられる」と話す。事業の成長とともに大学など基礎研究での発明を掘り出し、製薬企業などへのライセンス契約を橋渡しする事業モデルを構築する。和田社長は「基礎研究を活性化させる資金循環をつくりたい」と展望を描く。

「基礎研究を活性化させる資金循環をつくりたい」と和田リードファーマ社長

インタビュー/国立循環器病研究センター理事長・小川久雄氏 世界最高峰の成果生む

小川久雄氏
―研究活動への手応えは。

OICを整備し、企業との共同研究が活性化している。健都に移転後、世界最高峰の科学雑誌に掲載された成果も複数生まれた。新型コロナウイルス感染症の拡大を受け全国の医療機関から引き合いが増えたのがニプロなどと共同開発した可搬式の心肺補助システム(ECMO)だ。体外式の人工心臓技術を応用し、30年以上に及ぶ研究が結実した。血液回路について、従来は6時間以内に取り換える必要があったが開発品は約2週間持続する。

―OIC開設の意義は。

企業が病院や研究所に足を運び柔軟な発想をもとに共同研究を進められるのは画期的な環境。入居率は92%に達した。製薬や医療機器にとどまらず大学をはじめ通信や警備、機械メーカーといった多業種が参画し、医療分野での成長を狙う。地域住民の健康増進には、企業の知見を取り入れながら在宅ヘルスケアを拡充したい。

―医療人材の育成にも注力しています。

これまで国循の医師研修制度を通じて2000人以上の医療関係者や研究者を輩出した。19年度、国循はナショナルセンターで初めて看護師が医療行為を実践する特定行為研修を開講した。医療技術を習得するトレーニングセンターには全国から研修生が訪れる。衛生面などで国際基準を満たした大型の非臨床設備も整備しており、より多くの研究者に活用してもらいたい。

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