スパコン世界4冠の「富岳」、そのすごさを丸っと解説!
理研と富士通、共同開発快挙
理化学研究所が富士通と共同で開発したスーパーコンピューター「富岳」が快挙を成し遂げた。高性能計算技術に関する国際会議「ISC2020」で22日発表された演算速度を競う世界ランキングで1位を獲得し、日本勢として約8年半ぶりに世界首位を奪還した。また世界主要ランキングの4部門で世界で初めて同時に首位となり、総合的な性能の高さを証明した格好だ。速度と使いやすさを重視した富岳の今後が注目される。
(取材・山谷逸平、編集委員・斎藤実、藤木信穂、編集委員・宇田川智大)
アプリ/AI/ビッグデータ 主要部門首位
「複数の部門で突出して1位になればプロジェクトの技術力の高さと方向性の正しさを示せる」―。理研計算科学研究センターの松岡聡センター長は17日開催のオンライン説明会でこう語っていた。
その願いは届き、単純な演算速度を競う「TOP500」で1位を獲得。計算性能は415・53ペタフロップス(ペタは1000兆、フロップスは浮動小数点演算能力)を示した。産業利用など実際のアプリケーションでの性能を競う「HPCG」、人工知能(AI)で活用される性能を競う「HPL―AI」、ビッグデータ(大量データ)の解析に使われる超大規模グラフの探索能力を競う「Graph500」でも1位となった。松岡センター長は「アプリケーションで最高性能を出そうと思った結果、全てにわたって性能ベンチマークで1位を取れた」と喜ぶ。
ランキングは毎年6月と11月に公表される。日本のスパコンがTOP500で1位を獲得したのは、スパコン「京」が2011年11月に獲得して以来で、約8年半ぶり。菅義偉官房長官は23日午前の会見で「大変喜ばしい。関係者の努力に心から敬意を表したい」と称賛した。
測定結果は全てで2位と大差をつけた。特に「HPCG」が2位と約4・6倍、「HPL―AI」が同2・6倍の性能差をつけた。シミュレーションによる社会的課題の解決などへの活用やAI処理への適応性の高さが期待されている。
今後は創薬、防災、エネルギー、産業など幅広い分野で活用が期待されているほか超スマート社会「ソサエティー5・0」関連でAI活用も見込まれている。 国の科学技術力の象徴的な存在とも言えるスパコン。世界の開発競争は今や米中が覇権を争う構図が続く。両国は1―2年後には富岳の計算速度を超えるスパコンを投入する見通しで、覇権争いは熾烈(しれつ)さを増しそうだ。
日本でも水面下では次のスパコン開発構想も進む。松岡センター長は「使いやすさと最先端の両立を追求していく」としている。速さだけを追い求めるのではなく、アプリケーションを重視したスパコン開発で他との差別化を図っていくことになりそうだ。
「A64FX」商用化 モノづくりの底力発揮
今回のスパコン首位奪還は国産コンピューターの底力に加え、日本のモノづくり力を世界に知らしめた。
その象徴とも言えるのが、富岳の心臓部を担う中央演算処理装置(CPU)「A64FX」だ。スパコン「京」でも理研とタッグを組んだ富士通は、長年培ってきたプロセッサー設計の知的財産とノウハウをA64FXに注ぎ込んだ。
A64FXは携帯電話向けでも知られる英ARM(アーム)仕様の64ビットプロセッサー。ARMと共同で、スパコン向けに新しいアーキテクチャー(設計概念)を開発し、世界に先駆けて商用化した。
アーム仕様はオープンソースを推進する開発コミュニティーなどが多く、稼働するアプリケーションの数も多い。これが京と富岳との大きな違いだ。
京は高性能のUNIXサーバーで実績を持つ「スパーク」仕様をベースに独自にプロセッサーを作り込んだ。これにより11年に世界最速の座を射止めたが、独自仕様がハードルとなり、市販のアプリがそのままでは動かず、仲間作りでは苦労を余儀なくされた。富岳ではこの教訓を生かしアーキテクチャーをアーム仕様に切り替えた。A64FXは演算処理を担うコア(回路)数が48個。トランジスタ数は約87億個に上り、ピーク性能は2・7テラフロップス(テラは1兆)以上。プロセッサー内には高速メモリー「HBM2」が直付けされており、処理能力を左右するピークメモリーバンド幅は毎秒1024ギガバイト(ギガは10億)と高速だ。
富士通は米ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)とのパートナー契約により、HPE傘下でスパコンの老舗である米クレイに対してA64FXの外部供給を始めている。A64FXの外部供給は初めて。
富士通の時田隆仁社長は23日の会見で「今回の開発目標の一つは富岳の成果をグローバルに展開すること。富岳の成果を世界中に提供したい」と胸を張った。A64FX搭載のクレイ機は米国のロスアラモス国立研究所やオークリッジ国立研究所のほか英国のブリストル大学などが導入を検討中という。