ハエの構造に着目。循環型社会が求める「何度でも接着できる技術」が生まれた
物質・材料研究機構の細田奈麻絵(なおえ)グループリーダーらは、繰り返し着脱可能な接着技術を開発した。ハエの脚の裏にある接着性の剛毛の構造と、その構造を作るハエのさなぎの成長過程に着目。単純な制作工程を設計し、壁や天井から落ちないハエの脚と同じような接着構造を室温で作れた。産業用ロボットのアームに取り付けて滑りやすい製品の保持や垂直の壁を登れるロボットなどの開発が期待される。
同接着技術を利用し、ナイロン繊維1本で52・8グラムのシリコンウエハーを持ち上げられた。756本あれば60キログラムの人間をぶら下げられる計算だという。
循環型社会では強力な接着ではなく、繰り返し使用できる接着技術が求められている。その中で、バイオミメティクス(生物模倣技術)を利用した高性能の接着構造が注目されている。だが複雑な構造を作るために微小電気機械システム(MEMS)を使うなど高い生産コストが課題となっていた。
研究グループは、生物が少ないエネルギー消費で接着構造を作ることに着目。キイロショウジョウバエのさなぎの成長過程を観察し、へら状の骨組みを作り固めるという単純な過程を経ることが分かった。
この知見を基に、ナイロン繊維を水溶液と樹脂に浸し、固化したへら構造を作ることで、ハエと同じような接着構造を室温で作れた。
さらにこの接着構造は接触面に対し平行な方向の力には強い接着性を示すが、一方でテープを剥がすように力を加えると簡単に剥がせることを示した。
北海道教育大学と浜松医科大学との共同研究。成果は国際科学誌コミュニケーションズ・バイオロジー電子版に掲載された。
日刊工業新聞2020年6月18日