大手製造業で設備投資の厳選進む、ソニーは「実行判断は可能な限り延期」
2021年3月期は大手製造業による設備投資が冷え込みそうだ。新型コロナウイルス感染症による事業環境の先行き不透明感から、設備投資額の非公表が相次いでいるが、トヨタ自動車など公表した企業は前期比減が大勢で、前期比増でも減額修正するケースがある。非公表の企業も投資案件を厳選する向きが強く、緊縮ムードが漂う。
乗用車メーカーで21年3月期の設備投資額を示したのはトヨタのみで1兆3500億円。生産ラインの自動化などで高水準を維持するが前期比3%減少する見込み。三菱電機は同36%減の1500億円。車の電動化を見据えた先行投資にブレーキを踏む。「車の電動化対応の投資は従来前倒ししてきたが、顧客の動向を注視しながら慎重に判断する」(杉山武史社長)という。
三井化学は設備投資を含む「投融資」について同457億円増の1220億円を計画。約6割の大幅増だが、うち290億円は会計基準変更によるもの。また、経済減速に備え今後投資内容を厳選・繰り延べして投資額を減額修正する計画だ。DMG森精機は20年12月期の設備投資額を2月公表時から40億円引き下げた。投資案件は減っていないが、コロナ禍で欧州での検収が遅れていることが主な理由だ。
設備投資額を公表していない企業も慎重だ。長崎県諫早市にイメージセンサーの新製造棟を建設中のソニーは設備導入計画の一部を先送りする。「足元の事業環境の不透明性を踏まえ、残る設備投資の実行判断は可能な限り延期する」(十時裕樹専務)と生産能力増強に待ったをかける。
日立製作所も設備投資・投融資の優先順位を再点検する。「(21年3月期は)営業キャッシュフローが落ちてくるので、その確保の仕方を見極めながら投資検討をしていく」(東原敏昭社長)。
三菱ケミカルホールディングス(HD)も「手元資金を持ちながらやっていく」(伊達英文取締役執行役常務)方針で、旭化成は「設備保全やウィズコロナに必要な投資を実行し、拡大投資はゼロベースで見直して決める」(小堀秀毅社長)。
鉄鋼大手も21年3月期の設備投資額は非公表だが、高水準だった投資計画は圧縮を余儀なくされている。日本製鉄、JFEHDともに米中貿易摩擦の影響で19年に3カ年の設備投資計画を減額修正した。これにコロナ禍が加わる。
日本製鉄は「20年2月に発表した構造対策で(稼働か休止かなど)それぞれの高炉の役割を決めたがゆえに、設備投資は選択と集中となる。本当に必要な投資を厳選する」(宮本勝弘副社長)。JFEHDは「新規投資絞り込み、意思決定済み投資の時期を含めた見直し」を表明。神戸製鋼所も、鉄鋼やアルミ・銅事業中心に更新投資など必要なものを除き凍結する。
前期並みを計画する牧野フライス製作所は建屋建設などの大型投資は凍結するが「長期的視野で必要があるもの」(業務部)としてデジタル変革などに重点投資する。「成長・収益拡大投資は抑えずにやりたい」(住友化学の岩田圭一社長)との声も多い。