ニュースイッチ

日産「過去との決別」へ、社内の抵抗を押し切った内田CEOに好感

偽らざる真摯な計画
日産「過去との決別」へ、社内の抵抗を押し切った内田CEOに好感

「過度な販売拡大は狙わない。収益を重視し着実な成長を果たす」と内田CEO

日産自動車は、仏ルノーや三菱自動車との3社連合(アライアンス)で新たにまとめた連携強化策を活用し、構造改革を断行する。得意分野や地域に投資を集中し、各社と重複する事業を中心に生産能力を現状比約2割削減するなど合理化を進め、競争力の向上と固定費削減の両立を目指す。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で需要が縮小する中、大幅に悪化した業績の立て直しを急ぐ。(西沢亮、松崎裕、鎌田正雄、日下宗大)

日産は28日、2023年度末に売上高営業利益率5%(19年度の営業損益は赤字)や市場シェア6%(同5・8%)などを目指す中期経営計画を発表した。日産の内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)は同日のオンライン会見で「過度な販売台数の拡大は狙わずに収益を確保しながら着実な成長を果たす」とし、アライアンスも活用しながら事業の選択と集中を進める意向を示した。

構造改革ではスペインのバルセロナ工場やインドネシアの工場の閉鎖などにより、世界で生産能力を18年度の年720万台から約20%削減。年540万台体制を構築する。工場稼働率を80%以上に高め、収益性を向上する。商品ラインアップでは23年度までに車種数を20%減らし、一般管理費も15%削減。これらの対策で固定費を18年度と比べ3000億円圧縮する。

展開地域では日本、中国、北米市場に集中する一方、ロシアでの韓国市場や新興国向け専用ブランド「ダットサン」事業から撤退。南米や東南アジア、欧州市場ではアライアンスを活用して適正規模で事業を運営する。

電動化や自動運転など先進技術を搭載した車種を積極的に展開し、今後18カ月で12の新型車を投入する。これにより、23年度までに電動化技術搭載車を100万台以上販売するほか、先進運転支援技術搭載車を年150万台以上販売して、成長を実現する。

18年11月、カルロス・ゴーン前会長が逮捕された日産。その後も経営の混乱が続き、打つべき対策が遅れた。業績の悪化は今も続くが、その根底にはゴーン前会長の下で進めた規模拡大路線の行き詰まりがある。

日産は10年代前半から新興国での販売拡大を目指し、ブラジルやインドネシアなどで工場を相次ぎ新設。新興国向け専用ブランド「ダットサン」を展開したが、思うように販売を伸ばせず、工場の稼働率は低迷した。全販売台数の約3割を占める主力の米国では、インセンティブ(販売奨励金)を使った値引き販売を展開。開発費用を抑制した結果、新車の投入が遅れ、値引きに頼らなければ売れない悪循環を招いた。

ここ数年は米国での値引きを是正するなど販売の適正化に取り組むが、世界販売台数は17年度の577万台をピークに減少。新型コロナ感染拡大の影響もあり、19年度は493万台に急減。規模を追う中で増強した生産能力は18年度に年720万台まで拡大。販売を大幅に上回る生産体制が収益を圧迫し19年度は当期赤字に陥った。

1999年の経営再建計画「リバイバルプラン」では、ゴーン前会長など外部の力で国内5工場の閉鎖といったリストラを進めた。今後は生産能力の大幅な削減など痛みを伴う改革に強い抵抗も想定される。経営陣には取締役会の過半数を社外取締役が占めるガバナンス(企業統治)の力も活用するなど改革を断行し、再建計画を軌道に乗せる実行力が求められる。

内田社長「日産らしさ取り戻す」

日産の内田誠社長との主な一問一答は次の通り。

―新中計(事業構造改革計画)の位置付けは。 「足元700万台規模の生産能力で販売実績は500万台レベル。利益を出すのは困難だ。余剰資産を整理し選択と集中を徹底する。過度な販売拡大は狙わない。収益を重視し着実な成長を果たす。財務基盤を強化し、その中で日産らしさを取り戻す」

―サプライヤーとの関係性をどう構築しますか。 「サプライヤーとの体制を強化しながら今後、構造改革を進める。これまで台数ベースに多少の下振れリスクを含め発注し事業を進めてきた。サプライヤーが強いられた事前投資が販売台数を達成できず投資を回収できない課題があった。自動車業界が大きく変わる中、今までのやり方を見直す時期にある」

―人員削減の全体的な規模は。 「1万2500人削減を公表した。この中計見直しはリストラをメーンとしたわけでない。余剰資産に手を打つ。今後の人員削減の公表は控えたい。労働組合や関連政府機関と話し進める」

日刊工業新聞2020年5月29日
中西孝樹
中西孝樹 Nakanishi Takaki ナカニシ自動車産業リサーチ 代表
過去との決別。社内的な抵抗を押し切った内田CEOの新機軸にエールを送る。22年度2%の営業利益、21年度上半期までFCF赤字見通しなど、短期的な厳しさを素直に認めた透明性がある。偽らざる真摯な計画に好感を感じる。ただし、20%の能力削減は水増しの印象が強い。720万台は年間操業時間5,150時間(ほぼ3直)であり、前経営陣が10%の削減を打ち出し済み。今回の追加分は10%であり、実質600万台。それを2直定時(3,700時間)に置きなおしたのが540万台だ。今年度の世界販売が400万台を切る可能性が高い中で、完全にリーンな体質になれるという意味ではない。

編集部のおすすめ