【新型コロナ】旅客需要の蒸発…航空機産業に深刻な打撃
航空機産業が新型コロナウイルスの感染拡大で深刻な打撃を受けている。米ボーイングの生産休止を受けて、三菱重工業と川崎重工業は生産調整を実施し、2021年3月期に民間航空機分野の収益は落ち込む見通しだ。旅客需要の蒸発に伴って航空各社が設備投資を減らす可能性も高まっている。稼ぎ頭の同分野の失速は痛手で、各社は戦略の見直しを迫られる。(取材・孝志勇輔)
航空機産業を取り巻く状況が急速に悪化しており、ボーイングの2020年1―3月期売上高は前年同期比26%減の169億ドルだった。「新型コロナの流行は航空会社からの需要や生産の継続性など、ビジネスのあらゆる側面に影響を与えている」(デビッド・カルフーン社長兼最高経営責任者〈CEO〉)という。ボーイングが休止していた米国の工場を再開しているものの、サプライヤーへの影響が広がっている。
三菱重工は航空機部品を手がける名古屋航空宇宙システム製作所の大江工場(名古屋市港区)で、一時帰休を決めた。生産計画の見直しや固定費の削減も緊急対策として打ち出した。泉沢清次社長は「航空会社の状況によっては影響が長期化する」と懸念する。
川重も「787」向けの生産調整を実施。胴体部品を生産する名古屋第一工場(愛知県弥富市)を4月下旬から一部休止して、7日に再開した。
IHIは航空エンジン関連の瑞穂工場(東京都瑞穂町)などが操業している一方で、埼玉県内の新工場の稼働を延期する。
野村証券の前川健太郎シニアアナリストは「重工各社の航空エンジンのメンテナンス需要は累積の飛行時間によるため、運航停止が悪影響につながる可能性がある」と指摘する。三菱重工は21年3月期に航空エンジン関連の売り上げが当初計画と比べて35―55%減少する見通しを示した。
川重は21年3月期業績予想は未定だが、航空宇宙システム部門での民間航空機の機体の売り上げはボーイング向けがほとんどで、最大で3割程度落ち込む可能性があるという。「航空エンジン関連(の収益)に期待していたがどうなるか分からない」(金花芳則社長)としている。サービス面で収益を確保するのも難しい状況が続きそうだ。