乳がん患者専用の被覆材が誕生、価格を「生理用品と同程度」にした思い
白十字(東京都豊島区、天田泰正社長、03・3987・6111)は、乳がん患者のがん性皮膚潰瘍から出る滲出(しんしゅつ)液を受け止める被覆材「マインパッド ギャザー付ドレッシング」を、埼玉県立がんセンターの医師と共同で開発した。胸の形状にあわせて立体的に装着でき、滲出液が漏れにくい。既存の生産設備を流用し生産コストを削減した。生理用品と同程度の価格で普及を目指す。
医師から要望
「2017年に埼玉県立がんセンターの医師から要望を受け、開発を始めた」と同社商品開発本部マーケティング部メディカルブランディング課の池田陽子氏は振り返る。埼玉県の主催する医工連携マッチングイベントで医師から困り事を聞き、共同開発に至った。
乳がんが進行すると、がんが皮膚上に進出しがん性皮膚潰瘍が生じる。滲出液が皮膚から出るだけでなく、痛みや出血、においを伴うため患者の苦痛を引き起こす。
これまで医療現場では生理用品やガーゼ、尿取りパッドを半分に切り、患部にあてることで対応してきた。これらの既存品は平らな形状で胸に当てると隙間ができ、滲出液が漏れてしまうことがあった。肌と擦れて痛みが生じるほか、尿取りパッドなどを胸にあてることに患者が抵抗を感じるなどの課題もあった。
同製品は滲出液を受け止める専用品として開発し、形状を工夫することで使い勝手を高めた。被覆材の片側だけに伸縮性を持たせ、体の曲面や凹凸に沿いやすい。滲出液が漏れにくく、伸縮部のギャザーは潰瘍に触れないので患者は痛みを感じにくい。
かかとにも使用
乳がん看護認定看護師の意見を聞き、必要な形状を決めた。「立体的な傷に対応する被覆材はあまりない。頭頸部(けいぶ)がんの褥瘡(じょくそう)や、かかとの褥瘡にも使用できる」と池田氏は説明する。
開発の課題は低コスト化だった。一般的な生理用品と同程度の価格でなければ、病院は手軽に購入できない。同社が保有する既存の生産設備を流用したが「小さなパッドを整形することが難しかった」(同)と明かす。
従来の生産設備で作れるサイズと医療現場で求められるサイズをすりあわせ、既存の設備でも製品化できるよう仕様を決めた。生産コストを削減し価格に反映したという。
同製品は2枚の不織布で吸収剤を挟んだ構造。吸収剤は高吸収ポリマーを配合し、160ミリリットルの脱水保水量を備える。「吸収率が高く、症状が重い人でも交換回数が最小限で済む」(同)という。肌にあてても目立ちにくい色味も特徴だ。
1パッケージ30枚入りで、主に病院向けに販売する。同社のウェブサイトで購入でき、一部の病院販売店でも取り扱う予定だ。
同社はガーゼや外科手術用パッドを手がける衛生材料大手。医療・介護分野の技術や知見が医工連携に生きた。医療現場の困り事の解決をビジネスに結びつけた好例だ。