ニュースイッチ

がん患者の負担軽く…ベンチャーが機動力で勝負をかける

がん患者の負担軽く…ベンチャーが機動力で勝負をかける

セルソースは血液由来のPRPや脂肪由来の幹細胞培養を手がける

創薬・バイオベンチャー業界では、がんの周辺領域にある市場への参入が相次ぐ。抗がん剤の副作用に対処する製品作りや乳房再建への細胞提供など、参入方法はさまざま。ベンチャーならではの機動力を生かし、大手では手が回らない市場で勝負をかける。(取材・門脇花梨)

■ソレイジア・ファーマ 化学療法の障害改善

「患者さんが平穏に過ごせるようなモノを開発したい―」。ソレイジア・ファーマの宮下敏雄取締役は熱意を語る。同社は「サポーティブケア事業」として、抗がん剤の副作用に対応する製品を展開する。他社が開発した製品候補の権利を購入する「導入」を実施し、開発、市場投下を目指す。

現在、対象とする症状は三つ。口内炎と吐き気、末梢(まっしょう)神経障害だ。中でも現在有効な薬が存在しないといわれる末梢神経障害向けの薬の開発には注目が集まる。同社ではスウェーデンのプレッドファーマから導入した「PledOx(プレドックス)」を開発する。

末梢神経障害は、がんの化学療法を実施した際に起こる手足のしびれ。薬の影響で末梢神経が傷つくことで起こると言われる。プレドックスはこの神経をカバーするようなイメージだ。

ソレイジア・ファーマが展開する貼る吐き気止め「サンキューソ」

現在、臨床試験中で、既に第3相試験に突入している。宮下取締役は「吐き気や口内炎と違い、化学療法をやめた後にも残るといわれる症状だが、有効な治療法がない。ニーズは高い」と明かす。

2019年12月には、マルホ(大阪市北区)と日本国内における独占的販売権に関するライセンス契約を締結した。開発完了後は、マルホを通じて販売される。市場投下に向けて、順調に駒を進める。

市場に合わせた製品展開の視点も忘れない。英国のストラカンインターナショナル(現協和キリン)から導入した、経皮吸収する貼る吐き気止め「Sancuso(サンキューソ)」は国内ではなく中国などで販売する。中国は抗がん剤の副作用の吐き気を注射で止めるのが一般的。病院に来る手間がかかるため、貼るだけの薬はニーズが高い。一方、日本では経口薬が主流のため、ニーズが少ない。アジアを中心にグローバルな視点で、がん患者への貢献を検討している。

また、口内炎向けにはスウェーデンのカミュラスABから導入した「エピシル口腔用液」をMeiji Seika ファルマから販売している。唾液に反応してジェル状に固まる液体で、口内に吹きかけると膜ができる。舌や食べ物が口内炎に触れた際の刺激を抑える。食べる行為をサポートし、がんと闘う体力をつけてもらいたい考えだ。

今後もサポーティブケア関連の開発製品は増える予定。常に4―5の製品について導入を検討しているという。宮下取締役は「がんは亡くなる過程が壮絶な病気。少しでも苦しみを和らげたい。また抗がん剤治療がつらくてやめる方も多い。亡くなるまで平穏に過ごしたい、という要望に応える製品も出せれば」と意気込む。

■セルソース 乳房再建向け細胞加工

再生医療関連事業を手がけるセルソースでは、乳がんなどで乳房を失った方の再建手術市場に参入している。横浜市立大学附属市民総合医療センター形成外科が、同社の脂肪由来幹細胞培養受託サービスを採用。同手術に使われる細胞の加工を受託している。

乳房再建手術は、乳房に脂肪を注入する手術。ただ、脂肪のみを入れても定着率が低く、課題となっている。脂肪とともに細胞を入れると、定着率が数割上がる可能性があるという。乳がん患者のうち4万人が乳房の全摘出を実施しており、2万5000人が再建を望むと言われている。シリコンバッグを入れる方法もあるが、発がん性が認められた症例もあり、脂肪注入が主流となりつつある。ただ、同手術は難しい。加工細胞の提供は大きな社会貢献の意味をもつ。

血液由来のPRPを加工

裙本(つまもと)理人社長は「自身の細胞を加工して戻すため、拒絶反応が起こりにくいという利点がある。横浜市大には、100以上の手術に加工した細胞を提供した実績がある」と明かす。

同社は脂肪由来幹細胞の加工と血液の多血小板血漿(PRP)の加工を主力とする。従来、変形性膝関節症の治療に活用してきたが、細胞の関節や脂肪との親和性が高いという特徴に着目し、乳房再建手術にも活用の幅を広げた。

今後は海外展開も視野に入れる。事業提携できるパートナーがいれば進めていきたいという。裙本社長は「変形性膝関節症も乳房再建手術も、世界中に欲している患者さんがいる。幅広く見て役に立ちたい」と意気込む。

■副作用ない薬は存在しない

本庶佑(たすく)京都大学特別教授のノーベル賞受賞などで、近年注目を集める抗がん剤だが、副作用のない薬は存在しない。QOL(クオリティー・オブ・ライフ)という視点で見れば、症状をやわらげる薬は抗がん剤の開発同様に重要だ。また、外科治療でがんが治ったとしても、体の部位を失うのは肉体的にも精神的にも苦痛を伴う。失った部位を取り戻す治療は、難易度が高いながらもニーズが大きい。がんの周辺市場活性化は、がん患者や家族が前向きに生きるべく、大きな意味をもっている。

日刊工業新聞2020年1月7日

編集部のおすすめ