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デザイン賞の常連企業が言葉とイメージで導く地域コミュニティー

デザイン賞の常連企業が言葉とイメージで導く地域コミュニティー

近所付き合いの必要性を訴求したサロン

乃村工藝社は過去3年にわたり、国内外で150以上のデザイン賞を受賞している。客観的評価を通じ企業価値と関係者のモチベーションが向上し、プロモーションにもつながる―。こういった効果を得られることが、デザイン賞に果敢に挑戦する理由だ。

日本で著名な顕彰制度はグッドデザイン賞。工業製品やビジネスモデルなど領域は幅広く、総受賞数は5万件を超える。2019年度のグッドデザイン・ベスト100に選ばれたマンション販売用ゲストサロンの開発に当たっては、発注主である不動産会社との間で「グッドデザイン賞を受賞したい」という思いが一致した。

ただ、デザインという言葉を安易に使ってしまうと「デザインの良しあし」といった形で言葉が独り歩きしかねない。結果として、地域コミュニティーを活性化させるという本来の目的から外れてしまう恐れがある。このためデザインという言葉を、あえて除いた。

それに代わってデザイナーの越膳(えちぜん)博明氏が用意したのは「設(しつら)え」という日本語。「意匠・空間・活性化・機能」と誰もが理解できる言葉とビジュアルイメージで導き、課題の解決に向けて進めていくという手法を取り入れた。

サロンの1階では新しい試みとして、通常の扉や受け付けを省いた。それに代わって利用者や地域の人が、緊張せずに出入りできるような井戸端会議スペースを設置。買い物をした人が食事したり、雨宿りしたりできるような空間を“設え”た。

これによって利用者は地域を知り、地域の人はゲストサロンを認識するようになる。昔ながらの土間・居間・縁側による空間は、平屋を通じたご近所付き合いというイメージ。地域とのつながりという今回のお題には必要な要素であった。

また、椅子やテーブルを自由に置き換えられるようにすることで、実際の使い勝手を経験できるようにした。利用法を考え楽しみ、「新しい事をしたい」という思いに基づいた利用者・地域住民によるそれぞれの完成が生まれることになる。

地域コミュニティーを可視化した戦略は、今後のマンション販売の新たな方向性を示した。

(文=松田雅史・デロイトトーマツベンチャーサポートMorningPitch・新規事業開発ユニット)
日刊工業新聞2020年5月8日

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