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シリコンゴムの指輪になぜ人が集まるのか? 買いたくなる付加価値を作る「伝え方」

文=尼口友厚(ネットコンシェルジェ CEO)ストーリーとビジュアルでメディアと関係を作る「Qalo」

いつでもはめていられるシリコンゴム製の指輪


 これまでアクティブな活動をする人は結婚指輪を外す必要があった。しかしこの「Qalo」の指輪であればどんな時でも指輪をはめ続けることができ、結婚指輪を外している間に指輪を無くしてしまうということもなくなる。

 指輪は女性用と男性用があり、値段は15.99ドル(約1800円)から25.99ドル(約3100円)の価格帯。一番売れ筋のグレーの指輪は19.99ドル(約2400円)で、1150ものレビューが付いている。大きな人気と注目を得ていることが分かる。

 シリコン製の指輪は良い着眼点だ。だが、安全とは言えども、既存の金属製のリングにそうそう取って代わるのは難しいように思える。「Qalo」はどのようにして自分たちの製品価値をアピールし、販売に成功しているのだろうか。

 マーケットを明確にし、ウェブマガジンと連携

 その背景には、関係性の深いウェブマガジンと提携し、ターゲットとなる人たちに自分たちのミッションを伝える、という試みがあったようだ。

 創業者のベーカー氏は「Qalo」のシリコンゴムについて、「Qaloは単なるシリコンゴムの指輪を販売しているわけじゃない。カップルの結び付きを売っているんだ」と語っており、そのミッションに沿ってカップルを顧客層として想定したマーケティングを展開している。

 たとえば結婚をテーマとした複数のウェブマガジンとアフィリエイト提携をし、結婚のウェブマガジンサイト「Off Beat Bride」で「Qalo」が紹介された。

 その中では、自分の結婚相手が「硬くて冷たい感触」「ギターを弾くのに邪魔だった」などから指輪を身に付けなくなったという紹介文に始まり、「Qalo」の指輪がアスリートやアーティスト、何か趣味を持っている人、あるいは電気技師や消防士といった職業の人たちに適した製品であることを紹介。「紛失しても失うものは15.99ドルで済む」といったユニークなアピールも行われ、1200以上のシェアと40以上のコメントが寄せられている。

 記事に付いたコメントには、「すごく良いアイデアね。私たち夫婦は軍人だしウエイトトレーニングもよくするんだけど、そのたびに指輪を外すさなければならないのがおっくうだったのよね」というものや、夫や彼氏へのプレゼントに買おうと思っている、といったものが見受けられた。

 また、ジムやフィットネスをテーマにしたサイトともアフィリエイト提携している。フィットネス、健康的な生活情報を掲載するウェブマガジン「POPSUGAR」に紹介されたときには8000以上のシェアがなされた。

 ジムやフィットネスを好きな人は活動で指輪を外さなければならない機会も多いだろうし、その人たちに対してこの「Qalo」の指輪というのはうってつけなのだろう。

 いずれの記事も、各ウェブマガジンの読者によく適合したストーリーで紹介されている。おそらく「Qalo」はただ先方に丸投げしているのではなく、各ウェブマガジンとコミュニケーションを取り、かなり丁寧に記事を作り上げている。「Qalo」の成功の背景にはこういったメディアとの関係性構築もあるだろう。

 従来の結婚指輪に比べればはるかに素っ気ないシリコン製のリング。そんな商品に付加価値を付けたのは、ストーリーとビジュアルだけだ。

 いわば「伝え方」だけで付加価値を生み出したといえる。すごく難しいことではあるが、高付加価値な商品を販売する場合には無くてはならない技術でもある。
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
たまたま先日、スペースマーケットに取材に伺った。これを読んで「あっ!」と思った。結構共通する部分がある。モノとサービスに違いはあるけど。スペースも大事だが、時として空き時間に困る。スペースマーケットも単なる空間をストーリーとビジュアルを使いメディアで価値を生もうとしている。 https://spacemarket.com/

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