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新型コロナに打ち勝つ。睡眠研究の権威が教える「免疫と眠りの関係」

新型コロナに打ち勝つ。睡眠研究の権威が教える「免疫と眠りの関係」

スタンフォード大学の西野精治教授(撮影は2019年7月)

「普段から十分な睡眠を心がけること」―。政府は新型コロナウイルス感染予防対策の一つとして十分な睡眠の必要性を指摘する。睡眠はウイルスに対する免疫力を高める要素だからだ。そこで、ベストセラー書籍『スタンフォード式最高の睡眠』の著者として知られるスタンフォード大学医学部精神科の西野精治教授にウイルスに打ち勝つために重要な免疫力と睡眠の関係について聞いた。

―睡眠と免疫の関係を教えてください。
 睡眠が免疫を増強することは多様なエビデンスによって証明されている。1―2日寝ないと交感神経活動が上がり、気分も高揚する。そういう時は免疫も上がるという報告があるが、感染症などで問題になるのは慢性の免疫力低下だ。わずかな睡眠不足が少しずつ借金のように積み重なる、「睡眠負債」が溜まり、慢性の睡眠不足になると、確実に免疫機能は落ちる。感染の予防にも、感染したウイルスを排除する機能にも悪影響を及ぼす。

―具体的には。
 第一関門でウイルスを排除する細胞としてはナチュラルキラー(NK)細胞が代表例だが、慢性的な睡眠不足の場合にはNK細胞の活性度が落ちることが分かっている。実際、慢性の睡眠不足の人は1.5―2倍も風邪を引きやすいという調査データがある。また、感染後、回復過程に重要な抗体の産生とも関係がある。例えば、インフルエンザの予防注射を打っても睡眠不足の人は抗体ができにくいという研究が発表されている。

―免疫を増強するよい睡眠法はありますか。
 免疫機能を高める睡眠が具体的にどのようなものかは分かっていない。ただ、「健康な睡眠」というものがあり、それによって免疫の増強や脳の老廃物の排出といった睡眠の重要な機能はほとんどカバーできる。

―「健康な睡眠」とはどのようなものですか。
 入眠直後の90分程度に深い睡眠(ノンレム睡眠)が現れ、その後に短いレム睡眠がある。これを1周期として明け方まで4―5回繰り替えし、明け方は浅い睡眠になり、起きる準備をする。特に入眠直後の90分程度は重要。(細胞の修復や新陳代謝に関わる)成長ホルモンが多く分泌されるのはこのときだ。また、明け方でも強い眠気を感じる場合は、睡眠障害があったり、睡眠負債がたまったりしている証拠だ。

取材はウェブ会議システムで行った

―「健康な睡眠」を取る方法は。
 体温の調節が非常に大事だ。そのためにはまず、毎日同じ時間に起きて太陽の光を浴び、適度な運動をするといった規則正しい生活をすること。すると身体の中の温度は昼間が高くて夜は低くなる。同じ時間に眠くなり、深い睡眠ができる出る。

日本人の習慣である「入浴」は体温を調節できる簡単な方法だ。入浴後は一時的に体温が上がるが、身体が熱を下げようとして(40℃のお湯で15分の入浴では、その後90分程度で)入浴していない時よりも低くなる。そのタイミングで就寝するば寝付きも早くなるし、深い睡眠が出る。

―新型コロナの影響により在宅勤務が増えています。在宅勤務は外出により日の光を浴びることが少なく、通勤という少しの運動もなくなり、生活リズムを整える上で難しい面があり、特にリズムが後ろにずれる傾向があると聞きます。
 太陽の光は窓際にいれば十分浴びれる。ただ、家で意識的に身体を動かす時間を作るというのは確かに邪魔くさいかもしれない。まずは割り切って毎日同じ時間に仕事をはじめ、同じ時間に寝るといったリズムを整えることが大事だろう。一方、睡眠は健康の根本にあると考えていいものだが、免疫を増強するためのすべてではないと認識することは大事だ。ストレスや不安、食の影響も当然、大きい。

関連記事:睡眠研究の権威語る、最高の眠り方と睡眠ビジネスの懸念

西野精治(にしの・せいじ):スタンフォード大学医学部精神科教授、同大睡眠生体リズム研究所(SCNL)所長。医師、医学博士。1955年大阪府出身。大阪医科大卒業。87年大阪医科大院4年在学中、スタンフォード大精神科睡眠研究所に留学。05年にSCNL所長に就任。睡眠・覚醒のメカニズムを分子・遺伝子レベルから個体レベルまでの幅広い視野で研究している。著書に「スタンフォード式 最高の睡眠」などがある。
ニュースイッチオリジナル
葭本隆太
葭本隆太 Yoshimoto Ryuta デジタルメディア局DX編集部 ニュースイッチ編集長
1-2日寝ないと一時的に免疫が上がる報告があるという点は驚きでした。本記事を読み、「健康な睡眠」の取り方をより詳しく知りたいと思った方は睡眠に関する多様な疑問について西野教授に答えていただいた過去記事「睡眠研究の権威が語る、最高の眠り方と睡眠ビジネスの懸念」(記事末にリンク)も是非お読み下さい。

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