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岩手の短角和牛を使った生ハムで「稼ぐ畜産」モデルへ

肉のふがねが「産学官金」の連携で地域活性化へ
岩手の短角和牛を使った生ハムで「稼ぐ畜産」モデルへ

生ハム「セシーナ」の仕込み(肉のふがね公式フェイスブックページ)

地域資源活用

希少銘柄「いわて短角和牛」の高付加価値化サービスによる地域活性化に取り組む肉のふがね(岩手県岩手町、府金伸治社長、0195・62・2403)。地域資源を活用し、稼ぐ畜産モデルの構築を目指している。その核となるのが短角和牛を用いた牛肉熟成加工品となる生ハムの「セシーナ」だ。まだ国内では珍しい食材で、産学官金連携により付加価値型ビジネスの後押しが進んでいる。

いわて短角和牛は「南部牛」がルーツの和牛。岩手県北部の自然環境下で、夏は放牧され、冬場は里の畜産農家で飼育される岩手独特の「夏山冬里方式」で育てられる。自然交配による省力的で高い繁殖率とともに、飼料費などの面でコストメリットが高いという。

黒毛和牛に比べ脂肪分が少なく赤身のたんぱく質が多い肉質が特徴。“究極の赤身”として「フレンチやイタリアンのシェフらに注目されてきた」(府金社長)という。ただ、流通量は少なく、販路を広げるのが課題でもあった。この短角和牛を育てる畜産農家の将来もにらんだプロジェクトが岩手発の「セシーナ」である。

セシーナとはスペイン北部のレオン地区を中心とした山間部で保存食として生産されてきた牛肉の熟成加工品(生ハム)だ。モモ肉を大西洋の海塩でつけ込み乾燥熟成させる。精肉販売に加え、ハムづくりを志した府金社長は2014年にスペインの食品展示会でセシーナに出会い、その味に強く惹(ひ)かれたという。

岩手の風土適す

さらに岩手の風土が牛肉を使った生ハムを作るのに適していると決断。その後、現地の畜産・生産者らと交流を重ね、製造法や調理法、飲食店での食べ方などを学んだ。18年には約2億円を投じて加工用の工場を岩手町内に新設した。

岩手県岩手町に設けた店舗併設型の工場

同社が手がける無添加の生ハムは、いわて短角牛と岩手県野田村産の「のだ塩」のみで作る。商品ブランドの名称は「岩手短角和牛セシーナ」とした。12カ月、24カ月、36カ月と熟成期間ごとにそれぞれ市場投入する。4月29日から本格販売を開始し、1年物が解禁された。価格は30グラムで2300円(消費税抜き)。府金社長は「ワインのように熟成期間で、それぞれの味を楽しんでもらいたい」と話す。

収入安定化

また、同社では牛の1頭買いによる畜産農家の収入安定化にも力を入れている。セシーナの知名度と市場が広がれば、短角牛を飼育する畜産農家の経営環境の向上につながる。高付加価値型ビジネスの構築に向けては同社とともに畜産農家、岩手町、岩手大学、北日本銀行の産学官金が手を組む。

東北経済連合会の事業支援組織「東経連ビジネスセンター」(仙台市青葉区)の支援先にも選ばれた。専門家チームらによる市場開拓支援などを4月から受けるようになった。

今後、同社では生ハム関連の製造設備の増強も検討。将来は岩手とレオン地域との相互交流なども展望する。府金社長は「国内で牛肉の生ハムを浸透させていきたい」と力を込める。(編集委員・大矢修一)

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