【新型コロナ】メドレー医師に聞く。必要な情報を得るにはどうすればよい?
新型コロナウイルスに関する情報が毎日大量に流れる昨今。自分にとって本当に必要な、しかも信頼できる情報になかなかたどり着くことができず、人知れず悩んでいる人は多い。 患者のための医療情報サービス「MEDLEY」を運営するメドレーの園田唯医師に、新型コロナウイルス感染症に関わる情報をどう受け止めるべきか聞いた。(取材・昆梓紗)
刻々と風化する情報
―ここ1、2ヶ月はさまざまな情報があふれ、日々状況が変わっています。私は呼吸器内科医で感染症も専門としていますが、新型コロナウイルス感染症は他の病気とはジャンルが少し異なると感じています。まだわかっていない部分が多いのが正直な話です。
ウイルスは日々変化しています。なので、1、2カ月前に私が話した内容も、一部ではもう今とは違う内容になってきています。当時から国際的に権威のある論文や公的機関の情報などを踏まえて話をしているのですが、状況があまりにも変化してしまっているのです。早いと昨日の情報が今日はもう通用しない、といった具合に刻々と風化していってしまう。正しい情報を見極めるには、まずそこを押さえるのが大事です。
一部の分子標的薬を除くとがんなどではその変化が緩やかで、感染症の変化が日から週単位だとすると、がんの場合は年単位というイメージです。なので、こういった病気などと同じように考えるのは難しい。
感染症を専門的に見ている大きい病院か、国際的機関あるいは日本の機関が出している情報だと間違いが少ないと思います。日本だと厚生労働省か国立感染症研究所などになります。
ただ本当に最新のかつ有益な情報を集めるのは医師や専門家であっても難しい。間違った情報を得てそれに考えが引っ張られてしまう可能性もあるので、慎重な判断が必要です。
なので、先ほど言ったような機関の情報を拾うところから始めてください。すると、だんだんとしっかり情報整理をされている医師の発信も見えてくるようになると思います。
情報の内容が間違っていないことも大事ですが、情報が時間とともに更新されているか、さらに言うと中立的であるかも重要です。
情報には“表”と“裏”が必ずあります。極端な話、「(新型コロナウイルスに効くとされる治療薬の)『アビガン』は7割の人に効く」、という事実が出てきたとしても、残る3割の人には効かないわけです。この情報の“両面”を考えられる人でないと、情報がどんどん偏っていきます。なので、正確性、更新性、中立性。これをちゃんと配慮できているかというのがすごく大事になります。
そうですね。私たちが情報発信しているオンライン医療事典「MEDLEY(メドレー)」では、多方面から医師を集めて医師同士で情報をチェックしあっています。複数人で補完しあってデータをより正しく、かつ最新にしています。多くの人がチェックすることで中立性も出てきます。
例えば、「その道の権威」が出した情報があるとします。正確だし更新性もあるけれど、中立性に欠ける可能性もある。それは一人の医師が出しているからどうしようもない部分がある。メドレーではそういうことがないように気を付けています。
また、公的機関の出す情報には2つの課題があるのも事実かもしれません。サイトの構造が複雑であることと、使っている言葉が難しすぎることです。正直ウェブ情報に慣れている私が見ても、重要な部分がどこにあるのか、ぱっとわからないことがあります。また言葉が難しいとせっかくためになることが書いてあっても、理解できる人が限られてしまいます。
そのようなことがないように、自分が情報発信する場合には、必要な情報がすぐに得られるように、分かりやすいサイト構造にしていますし、コンテンツの言葉も一般人向けの平易な言葉を用いるようにしています。
あえて知らなくてもいい情報
―公的機関の場合だと、出される情報にタイムラグがあるというイメージがあります。最近は情報開示が以前より早くなっていると思います。特に新型コロナに関しては今まででは考えられないくらいの早さです。PCR検査結果件数などを翌日には出していますよね。そのあたりは必要に応じて改善されてきているのではないでしょうか。
―SNSやニュースサイトなど、いろいろな所に情報が転載されると、その情報が新しいのか古いのか分かりにくくなってしまうことがありますね。情報の最新性はとても大事ですので、私たちの新型コロナウイルス感染症に関する記事は、必ず何日に更新しましたというのを明記するようにしています。ただ、日時を明記しづらい情報も一部にはありますし、SNSで内容だけ拡散されてしまうとより一層難しくなりますね。拡散されたものをすべて正すというのは限界があると思います。
―先ほど専門情報を一般の方が扱うのは難しい、というお話がありましたが、自分にとって必要な情報かどうかを見極めることも必要ですね。語弊があるかもしれませんが、あえて知らなくてもいい情報はあると思います。たとえば「ある国で何人の方が亡くなった」というニュースが流れたとします。しかし私たちが日本で暮らしている限り、この情報を知ることでメリットのある人は少ない。恐怖心を煽るだけになりかねません。
―あえて知らなくていい情報を知ることで、惑わされてしまうということでしょうか。そうです。例えば、とある喘息の吸入薬が新型コロナウイルスに効くかどうか、という議論が1月~2月ごろに言われていました。データとしてよくなったという人が何人かいたのですが、使わなくてもよくなったかもしれない。結局もうちょっと答えを突き詰めて考えて究明していかないと分からなかったのですが、効くという情報がマスコミを介して流れていったことによって、一時その薬が市場からなくなりました。この影響によって喘息の患者さんが困ったという事実があります。
治療薬が効くか効かないか、が確定するまでは専門家に任せて、一般の方は不確定な情報を知らなくていい場合もあるのではと思います。
基本的にデマはリアクションをすると広がります。それは良い意味でも悪い意味でも。違うと指摘するだけで広がってしまうのです。特にSNSの特徴ですが、叩かれるとみんな注目してしまいます。デマとわかっているものにはリアクションをしないことです。
また、親しい人からの怪しい情報であれば、すごく冷静に「そういうのもあるんだね」という風に穏便に返しつつ何もしないのも良いと思います。私でもよく経験しますよ(笑)家族のような親しい人だと、さすがに違うよねと言ってしまうかもしれないですが、メールのなどのテキストで意図を理解してもらうのは簡単ではありませんしね。
ただ一般の方はそういった情報に対して、絶対に違うと言い切るのは難しいですし、不安になることもあると思います。過剰にリアクションしないスタンスを取りつつ、もし周りに詳しい人がいたら一度確認するくらいが良いかもしれないですね。
専門情報を分かりやすく伝える理由
―オンライン医療事典「MEDLEY」のアクセスは、ここ数カ月でどのような動きですか。新型コロナのコラムを書くとアクセスが増加します。検索による流入も多いです。なので、そういう意味では新型コロナについて書くのは社会に求められていることだと思うですが、書くのをちょっとためらう部分もあります。
日に日に情報が変わってしまうので、書いた記事の情報がいつか怪しくなって来る可能性があるからです。そこで心がけているのが、極力一般論を書くことと、「武漢でこういう報告がありました」というような揺るぎのない事実を伝えることです。これに加えて、現段階から分かる医者としての考察を加えています。
まず専門用語を極力使わないこと。医療用語は一般用語に置き換えます。また英語や略語を極力使わない。この2点はとにかく大事ですね。
また文章というのは、頭で考えながら読むとスピードが落ちるし、理解の精度も落ちてしまいます。考えなくても読める文章構造を心掛けたり、なるべくビジュアルを添えるようにしたりして工夫しています。
最初はすごく抵抗がありました。私が初めの頃に書いたコラムは今読み返すとすごく難しいです。それはどうしても自分の専門知識を出したくなってしまうからなんです。難しいことをなるべくひけらかさずに、でも大事なポイントは伝えるように、俯瞰して一歩引いて書けるようになったのは最近になってからかもしれません。
―こういった取り組みをされている専門家の方は少ないと思います。専門家であればあるほど自分の知識を詰め込みたくなってしまう。でも逆に専門知識を書かないでも伝えるべきことを伝えるというのが、もう一歩先のステップであると思っています。実はこれは臨床現場でも使える大事なスキルです。そして医療への注目が高まっている今こそ、社会全体から求められているものではないでしょうか。
医療や健康への関心が高まっているからこそ、正しい情報・知識を分かりやすく取得できるようにするというのは大事ですし、今後も必ず役立ちます。これからも新たな病気や感染症は出てきますから、今回のことを教訓にして今後に活かしていくべきだと思います。
オンライン医療事典メドレーのコラムをいくつか紹介します。
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