資生堂に宝、サントリーも!品薄の消毒液に異業種参入相次ぐ。各企業の特徴とは?
新型コロナウイルス感染拡大が続く中、消毒液の品薄状態が続いている。低濃度アルコールタイプやノンアルコールタイプの製品まで、ドラッグストアなど売り場の棚から消えている状況だ。日用品各社が製品を増産するほか、化粧品、酒造企業など異業種からの参入も相次ぐ。品不足解消に向け、政府も増産支援に乗り出した消毒液の今に迫る。(門脇花梨)
低アルも◎ コロナ不活性化効果の確認進む
界面活性剤成分にも不活化効果を確認―。北里大学大村智記念研究所ウイルス感染制御学研究室Iの片山和彦教授らの研究グループは、市場に流通している花王の22製品について、新型コロナウイルス不活化効果があるか、試験を実施した。
実験は新型コロナウイルスと試験対象液を混合し、培養細胞に添加する方法で実施。不活化とはウイルスが人に感染できなくなり、体内でウイルスが増えなくなる状態をいう。細胞に添加し、ウイルスが細胞に感染できず細胞を培養しても増えないかを確認した。
結果、21製品に不活化効果があることが示唆された。このうち、手指の消毒液をはじめとする15製品は、ウイルス液と試験対象液の接触時間が1分だったにもかかわらず、全てに不活化効果がみられた。洗濯洗剤などの6製品についても、10分間の接触で同効果がみられた。
片山教授は「効果の明らかな製品を迷わず購入してもらい、正しく予防衛生に活用していただきたい。皆さんの健康を守る一助になればいい」とする。
同グループは、水道水で濃度を調整したエタノールについても同様の試験を実施した。50%以上の濃度のエタノールで不活化効果が認められたという。今後、消毒液を選ぶ一つの指標となりそうだ。
「収束後も習慣に」啓発
今回実験した製品の中には、「クイックルJoan除菌スプレー」のようなノンアルコールタイプにも不活化効果がみられた。同グループでは界面活性剤成分によるものだとみている。
新型コロナウイルスは「エンベロープ」という膜を持つ。これを界面活性剤で壊すことができるという。経済産業省が台所用洗剤などを消毒方法として検証するのはこのためだ。
現在、花王では「ビオレu手指の消毒液」をはじめとする消毒液を増産している。和歌山工場(和歌山市)をはじめとする4工場を活用し、19年比で20倍の量を生産する。まずは医療機関に供給し、徐々に市場にも投入していく考え。片山教授の実験結果は、好調な販売への追い風となりそうだ。
ライオンが手がける消毒液「キレイキレイ薬用ハンドジェル」は、消毒成分「ベンザルコニウム塩化物」を有効成分とする。アルコールは含有しているものの、有効成分としての配合ではない。新型コロナウイルスへの消毒効果は確認していないという。ビジネス開発センターコンシューマーナレッジ快適生活研究所ヘルスケアマイスターの芳賀理佳主任研究員は「消毒液を使う習慣をつけることが大切。正しい使い方を学んでもらうことが感染症予防につながる」と説明する。
同社では消毒液も手洗いと同様、指の間、指先、手首までしっかりと使用するようホームページなどで紹介している。どんな消毒液でも、塗り残しをつくらないことが重要だという。帰宅してすぐ、手洗い前に使うことによる有効性も高い。芳賀主任研究員は「玄関に入ってから照明のスイッチやリビングのドアノブなど手洗い前に触る部分は意外と多い」と指摘する。製品以外にも“正しい使い方”の啓発で感染予防に貢献する。
高濃度品、医療機関向け提供
酒類業界では、自社商品として消毒に使える酒を開発する例が相次ぐ。厚生労働省もアルコール度数の高い飲酒用の酒を消毒液の代わりにすることを特例として認めている。
若鶴酒造(富山県砺波市)では“消毒に使えるお酒”として「砺波野スピリット77」を発売した。アルコール度数77%の酒で、手指の消毒に活用できる。現在、医療従事者からの注文を受け付けている。一般消費者は直営店でのみ購入できる。急ピッチで製造を進めている。
大手酒造企業の宝ホールディングス(HD)やサントリーHDも、自社で製造するアルコールを手指の消毒用として提供すると発表している。企業規模を問わず、業界を挙げて不足解消に動きだしている。
既存の製造ラインを活用し、消毒液製造を手がける企業もある。資生堂は、アルコール濃度70%以上の消毒液を独自に開発、那須工場(栃木県大田原市)で製造を開始した。5月には大阪工場(大阪市東淀川区)ほか3工場でも製造する。国内4工場で月約10万リットル生産できる体制だ。
高濃度アルコールで懸念される「手荒れ」に着目した消毒液で、長年化粧品製造で培った技術により荒れにくい消毒液に仕上げた。既存の化粧品製造ラインを活用し、生産体制を整えた。今後、政府を通じて医療機関に提供する予定だ。消毒機会の多い医療従事者の手荒れに配慮する。
同社は現在、同消毒液の処方を公開している。今後、消毒液を製造したい企業に参考にしてもらいたい考えだ。消毒液不足を社会課題としてとらえ、解消に貢献する。
急激に需要が拡大したことで、現在は消毒液市場に他分野からの参入が相次ぐ。だが、新型コロナウイルス感染症の収束後は、需給が改善し“売れ残り”も懸念される。新規参入組にとって、新たな成長事業となるか、一時的な社会貢献に終わるのかは不透明だ。
ただ、一般的な「感染症予防」として消毒液が効果的なことに変わりはない。習慣として根付けば、市場規模は拡大する。元来消毒液を主力製品の一つとする日用品メーカーをはじめ、異業種にとってもビジネスチャンスとなりそうだ。