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なぜ日本はいつまでも“ジェンダー不平等"なのか、「男女リーダー50対50」への道

働き方改革 “世界標準”への一歩

世界経済フォーラムが2019年12月に発表した男女格差ランキングによると、日本は153カ国中121位だった。政府は「女性活躍推進」を旗印にして啓発に熱心だが、前年からも順位が後退した。どのように取り組めば、日本企業は世界レベルに追いつくのか。企業や女性リーダー支援の現場を取材した。

クレアン(東京都港区)の従業員は男性15人、女性20人。男性が多数だった時期もあるが、今は3対4で女性が多い職場となった。同社の事業は企業のCSRを支援するコンサルティングと環境報告書の作成。環境分野は理系の知識も求められるので、同業者には男性社員が多い。

薗田綾子社長は「女性が増えてジェンダー(性別)バランスが良くなり、コミュニケーションの質が上がった」と効果を語る。男性コンサルタントは論理的な会話が多いが、「女性は対話力があり、顧客から共感が得られる提案をする」と違いを語る。同社と契約を継続する顧客が増え、過去最高と言えるほど業績好調という。

同社は女性誌の企画支援などのマーケティング会社として88年に設立したので、当初は女性社員が多かった。95年にインターネット事業を始めると男性が増え、女性は3割まで減った。

再び女性が多数を占めた背景に在宅や時短勤務、フレックスタイム制の採用がある。制度はあっても使われない企業がある中で、同社は従業員35人中7人が週3―4日出勤や6時間勤務をしている。薗田社長が従業員と面接し、希望を聞いて働き方を決めているので“使われる制度”になっている。「若手も働きやすいと喜んでくれるので、優秀な方が入社してくれるようになった」(薗田社長)と効果を語る。女性のためだけと目的を狭めず、「誰でも使える多様な仕組み」にした成果だ。

薗田社長を含めた管理職5人のうち、女性は2人。女性に管理職を打診すると1回目は断られるが、2回目以降は「サポートすると言って不安を取り除くと、引き受けてくれる」と経験を披露する。

「女性のエンパワーメント原則」社内活動などの参考に

持続可能な開発目標(SDGs)は目標5で、性別による差をつけずに機会を与える「ジェンダー平等」を掲げる。差別撤廃はもちろん、育児や家事など無報酬労働への評価、ICTを活用した女性のエンパワーメント(能力の発揮)と多くの目標が並ぶ。

日本の遅れが目立つ目標が「政治、経済、公共分野への女性参画、平等なリーダーシップの機会」だ。国や地方議員、首長、企業幹部の女性比率が低く、世界経済フォーラムの調査で世界下位に沈んだ。

クレアンでは、ジェンダーバランスが良くなり、コミュニケーションの質が上がった(社員旅行)

女性が能力を発揮できる職場にするには、企業は何をしたら良いのか。国連機関が提唱する「女性のエンパワーメント原則(WEPs)」が参考になる。社内推進、取引先との連携、社外発信など企業活動に関連づけて手順を紹介している。世界では約3000社、日本では250社がWEPsに署名している。WEPsを参考にすると、世界標準を見据えた取り組みができる。

調達先、多様化の波

サプライヤーダイバーシティー(調達先の多様化)の一環として、女性経営者の会社から製品を積極的に購入する企業の動きが欧米を中心に広がっている。その波がじわり日本にも押し寄せている。日本は女性役員・社長の比率が主要国で最低レベルにあり、課題克服に向けたヒントが調達分野にありそうだ。

米国発祥のウィコネクト・インターナショナルは、女性経営者の企業を多国籍企業の調達網につなげる取り組みを行う。アクセンチュアやインテル、ジョンソン・エンド・ジョンソンなど約100社のサプライヤーダイバーシティーに取り組む企業がスポンサーとなり、非営利で活動を行う。

具体的には女性が51%以上の株式を持ち、実質的にも経営を支配している企業に認証を与え、データベース「ウーマン・ビジネス・エンタープライズ(WBE)」に登録。スポンサー企業にWBEの登録企業からの製品調達を促すほか、女性経営者に対しても、大企業の調達や広報部門のリーダーらが講師役となり、効果的なプレゼンテーションの手法やホームページの作成方法などを教えている。

2018年に日本支部が創設され、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の目標5「ジェンダー平等」に取り組んでいる。過去2年で、日本ではKIGURUMI.BIZ(宮崎市高千穂通り)や日本精機(大阪市生野区)、Waris(東京都千代田区)など10社に認証を付与。20年末までに30社の認証を目指している。

同時に、まだ0社の日本企業のスポンサーを年内にも数社獲得したい考えだ。日本支部の鈴木世津ディレクターは「女性経営者にやさしい企業との印象が付けば、消費者に選ばれる企業になる」と説く。背景には、家庭の購買決定権の85%は女性が握るとのデータがある。女性の消費者は女性経営者にやさしい企業を評価し、できればこうした企業から商品を買いたいと思う傾向があるという。欧米では、こうした観点からスポンサーになる企業が多く「日本でも根付くことを期待する」(鈴木ディレクター)。

女性社長比率 日本1割以下

笹川平和財団が外部の専門機関に委託して行った大企業のジェンダー平等の調査(2019)によると、日本、香港、シンガポールのアジア3カ国・地域のうち、ジェンダー平等を意識したサプライヤー・ポリシーを持つ企業は武田薬品工業とレノボグループ(香港)の2社だけだった。

レノボは同じ価格や品質なら女性経営者の企業から優先的に調達しており「当社がサプライヤーダイバーシティーに取り組むことは、逆に当社もダイバーシティに取り組む企業から選ばれるようになる」(レノボ・ジャパン)と語る。武田薬品は「多様なサプライヤーとの提携は新しい革新的な製品やサービスの利用を可能とする」(広報担当者)と見る。

帝国データバンクの調べで、日本は女性社長の比率が7・9%(2019)と1割を切る。調達先に女性経営者を望む動きは、女性の起業率向上や後継社長に女性を起用する動きを後押ししそうだ。

ウィコネクト・インターナショナル日本支部は、SDGs目標5の「ジェンダー平等」に取り組んでいる(日本支部提供)
日刊工業新聞2020年4月17・24日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
「SDGs面」で「ジェンダー平等」について連載をしました(4月17日、24日)。サプライヤーダイバーシティ、ジェンダー投資などの言葉が出てきています。仕事をしていると海外との差に気づきません。日常すぎるからかもしれません。世の中は男女5:5、だからリーダーも5:5というのは自然ですね。長時間労働解消、女性活躍、BCPなど、個別課題として対応していると場当たり的です。いつでも、誰でも、男女とも使える仕組みを考えるべきだと思いました。

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