「生産地が半減するかも」危機感から生まれたコーヒーの直接取引を支えるビジネス
複数業者で注文まとめる
ムトナ(大阪市中央区、後藤将社長、06・6253・1333)は、2020年中にコーヒー生豆の売買プラットフォーム「TYPICA(ティピカ)」を立ち上げる。気候変動や需給バランスの乱れにより「50年にはコーヒー生産地が半減する」(ティピカの山田彩音代表)との危機感から、生産者と利用者を直接つなぎ、持続的な生産体制を維持する「ダイレクトトレード」を提唱する。中小規模の事業者でも中間の輸出入事業者や、倉庫業者を介さず生産地と直接取引できる仕組みを整えた。
【ロット問題解決】
コーヒーは通常、最低数量として1コンテナ当たり18トンから取引する。小規模農家や国内のロースター(焙煎〈ばいせん〉事業者)単体では最低ロットを満たせず、間に商社などが介在することがほとんどだ。ただ中間業者が入ることで生産者の顔が見えなくなり、トレーサビリティー(生産履歴管理)などが確保しにくいという問題があった。
ティピカはウエブ上のプラットフォームを介し、コンテナを複数事業者間でシェアすることによりロット問題の解決を目指す。エチオピアやタンザニアなどの306の農家から取り寄せたサンプル豆をカッピング(品評)した後、各ロースターが必要数量だけ発注する。単体の取引量が小さくても、複数事業者の注文をまとめることで発注量を確保する。ムトナには総額の20―30%の手数料が入る。
【顔の見える取引】
オンラインプラットフォームでは詳細な生産地情報が分かるほか、テレビ電話などを通じて生産者とやりとりできる。どの国からもタイムリーに情報が書き込めるよう、自動翻訳機能を導入予定だ。
価格や味だけでなく「生産者との心のつながりもロースターにとって大事な要素」(同)だという。市中に出回らないニュークロップ(新年度の生豆)を適正な価格で購入できるのもロースターにとってはメリットだ。
【スケールアップ】
山田代表は焙煎所の立ち上げを機に、焙煎士としてのキャリアをスタート。19年にティピカの事業を立ち上げた。現在はオランダを拠点に活動する。
経済透明性の確保には、適正な価格の取引を保証する「フェアトレード」もあるが、農家にとって認証を得るための金銭的負担も少なくない。一方、IT活用で「生産者とロースターがつながり、コーヒーサステナビリティーが高まる」(同)と予測。ダイレクトトレードは新しい貿易の仕組みになり得るとして立ち上げを決めた。
全国8カ所で開いたカッピングイベントでは、これまで90社が興味を示し、半数からオーダーが届いた。ただ「(コンテナを満たすだけの)理想的な輸入量にはまだ足りず、スケールアップが課題」(同)とみる。
新型コロナウイルスの影響でイベントの開催は難しいが、「サンプルを郵送する方法に切り替えたことで、普段イベントに参加できない遠方のロースターにも提案できるようになった」と山田代表。取引する5カ国からまずは各1コンテナ、計90トンを取引するのが当面の目標だ。(大阪・大川藍)