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悩める“ワーママ”に贈る!最強のライフキャリアの思考法

キャリアコンサルタント・岩橋ひかり氏インタビュー
悩める“ワーママ”に贈る!最強のライフキャリアの思考法

     

「次の流行」は果たして何だろうか。デジタル社会において流行の移り変わりは速く、いま人々が多くの時間を費やしているSNSなどのコンテンツも、次々にそれに代わる新しいものが現れてはまた消えていく。試行錯誤した言葉がTwitterのトレンドに載っても、時間をかけて構図を決めた写真がInstagramのトップに表示されても、明日にはまた別の新しい話題に注目が集まる。次に何が受け入れられるのか分からない、そんな目まぐるしい日々の中で、「自分が何をすればよいか分からない」「自分のしたいことが見つからない」「目標がない」と、ひとまず今の場所に腰を下ろしているだけの人は少なくない。特に春はなおさらだ。

そんなモヤモヤした気持ちを心に秘めたまま過ごしている人に向けて『最強のライフキャリア論。(時事通信社)』は出版された。本書の著者であり、女性向けのキャリアコンサルティング企業・MYコンパス(東京都目黒区)社長の岩橋ひかり氏は、「特に人生の変化が多いのが、20代~40代女性です」と話す。仕事・結婚・出産・子育てと、短期間で立て続けに発生するライフイベントに悩みながら生活している人は多い。これまで2,000人以上の女性のキャリア支援をしてきた岩橋氏に、女性を中心としたキャリアの悩みや解決法について話を聞いた。(取材・梶田麻実)

―昔から明確なキャリアプランを持っていましたか。

「いつか起業したいという気持ちはずっと持っていました。私の父や親戚はみんな商売人で、そんな環境で育ったこともあり、起業することが普通だと思っていたんです。サラリーマンへの憧れから会社員になったときはとても新鮮で、社会科見学のように働いていましたが、いつか起業するために、やりたいことを模索しながら会社に所属していました」

―会社員時代に感じていた悩みや不安は。

「企業で10年間働いた後、2010年に第一子を出産してから復職し、子育てをしながら人事部門で働いていました。当時は、今ほど子育てしながら働くことが当たり前ではない時代でしたが、女性活躍推進やダイバーシティ推進の流れが徐々に出てきていたこともあり、男性の経営者や管理職者も表向きは仕事と子育てを両立できるように推進していました。それでも実際には、人事部門にいながら『うちの部署に時短の女性はいらない』『うちの仕事は特別なので無理』という声をよく耳にしていました」

「派遣の人材採用の際にも『この人は妊娠しそうだから避けよう』『妊娠した人は派遣の契約を終えて次の人を入れよう』という声までありました。自分の仕事を回すための発言だったとは思いますが、女性の働き方に対する理想と現実を目の当たりにしましたね」

「国が求める女性管理職の増加や育休明けの復職率の増加という課題に対しては、会社では数字上でクリアできているように見えていましたが、実際に耳にしていた声は少し違っていました。数字上の結果と内部の動きの違いは、きっとどの会社でも起きていることだと感じ、この状況は誰にとってメリットがあるのか、これで女性も会社も国も幸せなふりをしていいのか、という疑問を持っていました」

MYコンパス社長の岩橋ひかり氏
―キャリアコンサルタントの仕事に辿り着いたわけは。

「前々から起業するためのビジネスモデルやプランを考えていたものの、思いついてもすぐに飽きてしまっていましたが、人事部門にいたときには、自分がいつも何かに怒っていたり、常に感情が動いていたことで、これは自分が興味ある分野かもしれないと気が付きました。そうして業務上で新卒採用の相談にのるだけでなく、社内のママのネットワークを作ってランチ会を主催したりしながら、色々な人の話を聞いていました。遡れば、学生時代から人の話を聞いたり相談にのることは好きでしたね。キャリアコンサルタントという仕事が、自分にとって飽きずに続けられるテーマだと感じました」

「ワーキングマザーとして働いているうちは、忙しくてなかなか時間が取れませんでしたが、2度目の育休期間で自分のキャリアを見つめなおそうと考えていて、「女性がライフステージの変化に柔軟に、才能を活かしながら幸せに生きていける社会の実現」を目指して独立することを決めました」

―独立してから大変だったことは。

「キャリアコンサルティングの知識や理論は分かっていたものの、集客方法が分かりませんでした。相談業はなかなかお金を取りにくいもので、自然な流れで申し込んでもらい、気持ちよくお金を払って相談してもらうためのビジネスモデルを考えるのが大変でした。半分カウンセラーで半分マーケッターのような感覚でした」

―どのように人を集めていきましたか。

「育休中に書いていたブログが集客ツールの入り口となりました。安心して相談できる存在になるために人となりをブログに書いたり、無料モニターを募集してカウンセリングの感想や実績を載せたりしました。当時はブログが流行っていて、育児中の女性とブログの相性がよかったんです。立ち上がり時点は売り上げがない時期ももちろんありましたが、コツコツやっていきました」

―ブログからどう本格化していきましたか。

「まずはカウンセリングを行いますが、一度で大きく変わることはないので、継続して定期的にカウンセリングできる6回分のパッケージを作りました。そして3ヶ月~半年かけて話を聞いていく中で、みんなの悩みをリサーチしていきました。はじめは1人で20人をみていましたが、1対1のカウンセリングではすぐに手一杯になるため、オンラインのカリキュラムを作りました。すると、一期で50人集まり、リーダーを決めて小規模のグループをいくつか作ることで円滑に進められるなど、試行錯誤しながら進めていきました。そして現在も、コミュニティ型のカウンセリングを続けています。ブログで集客を行い、近所の喫茶店でカウンセリングすることから始めましたが、お客さんが来れなかったり、遠方のお客さんにはスカイプでのカウンセリングを実施していたので、オンラインへの移行は問題ありませんでした」

―カウンセリングで多い悩みは。

「悩みを聞くと、最初は『出産しても仕事を続けていいのか』『職場の人が理解してくれない』『旦那さんが協力してくれない』という声が多いんですが、話を聞いていくと、結婚・出産・子育てをして落ち着いた時や、なんとなく新卒で就職した会社で5~10年働いてふと立ち止まった時に、『私ってこの先本当に今の仕事のままでいいんだっけ』という悩みが出てきます。表面的には、誰かのせいにしてイライラしていたことも、カウンセリングをして自分の気持ちがクリアになってくると、問題は実はそこにないことに気付きます。はじめはみんな、自分が何をしたいかがよく分かっていないので、講座をやりたいことを考える場所にしていきました」

     
―その後、2017年に「MYコンパス」を設立しています。

「自分がなにをやりたいか探す『MYコンパス・アカデミー』という個人向けの3ヶ月オンライン講座や、卒業生向けのコミュニティ『MYコンパス・ラボ』をはじめ、転職支援・法人向けのマーケティング事業・人材紹介事業を運営しています。『MYコンパス・アカデミー』の3ヶ月オンライン講座は、始めてから3年弱が経ち、延べ約300人の利用があり、現在まる10期を終えようとしています。ここに女性が集まることで仲間に影響を受けて意識が高まり、向上心のある全国のママ層の人たちが100人単位に増えていて、今度はその女性たちにマーケティングの仕事がくるようになってきています」

―運営で大切にしていることは。

「はじめは私が運営していましたが、徐々にキャリアコンサルタントの資格を持ったメンバーが手伝ってくれるようになり、今では講師として中に入ってくれています。仕組みはできているので、私はお客さんを集めてくるような仕組み作りや、アプローチを考えています。本の出版もアプローチの一つですし、ブログに書いていたことを時流に合わせてTwitterやnoteに変えたりしています。そんな中で変えていないのはメルマガの配信ですね。登録者は現在約2500人に増えています。毎週書き続けて、コミュニケーションの手段として大切にしています」

―今回、初の著書「最強のライフキャリア論。」を出版されました。

「オンライン講座は、3ヶ月10万円程度の価格帯でやっていますが、なかなか払えない方もいると思ます。私のメソッドをもっと手軽に多くの人たちに知ってもらえたらという思いで、本の出版を決めました。なかなか実態の伝わりづらい講座なので、これまでも、人に伝えることに苦労してきました。本という媒体があることで、手に取りやすく、理解してもらいやすい形にできたと思っています」

―講座の内容をもとに書かれたのでしょうか。

「300人の女性の話を聞き、実際耳にしたリアルな悩みも書き入れています。感情移入しながら読めるように3人の主人公を立てたライフキャリア小説という形をとりました。女性は共感できる要素が多いと思います。逆に女性の実態を覗き見れる部分もあるので、男性の方にも読んでいただいて、女性心理を掴んでもらえればという思いもあります」

―女性の働き方について、よく描かれています。

「女性の働く環境は短期間で変化していて、どんどん多様になってきています。昔は女性は家庭に入るしかない時代があり、男女雇用機会均等法の世代の人たちが女性も働ける権利を得て、女性が男性と肩を並べて肩パットを入れて働く世代があり、今では子育てをしながら働く人が増えています。これからの世代は、仕事を辞める前提で子供を産む人も少なくなり、選択肢が増えてきています。だからこそ、選べるからこそ、”本当の自分がどうしていきたいか”ということが世代を超えて、今を生きる人たちの共通の悩みやテーマになっていると感じています」


<言葉をアウトプットして自己認識する>


―本の登場人物も岩橋さん自身も、ストレス発散として自分の思いをノートに書き出しています。

「自分の気持ちや感覚を知る上でアウトプットは大切です。モヤモヤしたときには、言葉にして外に出し、考えをビジュアル化することで、自分が何を考えているか認識できようになります」

「自分のやりたいことがみえない人に対して、いきなりやりたいことを考えてもらうようなワークやメソッドはよくありますが、単刀直入に聞かれると、今、周囲に求められている(母として女性として、などの)イメージにおける理想を考えてしまう傾向があります。そのため、まずは思い込みを取り払い、前提の部分から考えていくことが肝になると思い、第一章は『自分らしさを取り戻す正しい手順』から書き始めています」

―ブログや日記など、続けることはなかなか難しいです。

「毎日やると決めて宣言することで、自分をやらざるを得ない状況に追い込むことが大切ですね。日課として組み込んだり、嫌でも締め切りを作って書くことが重要です。自分の思いを言葉にして考えていけば、絶対に答えを導き出せると思っています。そのために私は、良質な質問を提供することと、書き続けられる・行動し続けられる環境を提供していきたいと考えています」

―著書の中でも、自分の思いを言葉にして宣言するワークがあります。

「言葉にすることには、2つの意味があると思っています。1つは、自分の願望や望む世界を意識して言葉にすることで、自分の願いに気付くことができます。もう1つは、自分の思いを発信し、自身の考えを知ってもらうことで、新しい転機が生まれる可能性があります。例えば、私が本を書いたことで『こういう考えを持っているなら、あの授業で一緒に組みたい』などと思ってくれる人がいるかもしれません。自分が何をしたいのか認識するための言語化と、それを相手に共有するための言語化は、とても大切です」


<“転機”は自分で作り出す>


―「転機」こそ自分を見つめなおすチャンスと書いていますね。

「転機とは、役割・人間関係・ライフスタイル・考え方のうち1つ以上が変わることだといわれています。自分の転機を振り返ると、上京や就職をはじめ、部署異動・結婚・出産・育休、退職、独立など色んな節目がありますが、大切なのは、そういった転機をどう自分で作っていくかだと思っています。与えられる受け身の転機だけではなく、いかに自立的な転機を仕掛けていくかが重要です。積極的に行動していくことで、自分の行動を見つめなおすきかっけが増え、出来事に柔軟に対応できるようになっていきます」

―岩橋さんにとって、今回の出版は転機ですね。

「本を出したいという気持ちはずっと持っていたので、待っていたわけではなく、本を出せるように自分で仕掛けていき、作り出した転機です。一年以上前から動いてきて、なぜこの時期に……という気持ちはありますが、世の中が混乱している今だからこそ、自分のことを考える機会ではあると思うので、ぜひ読んでもらえると嬉しいです」

―今後の目標を教えて下さい。

「右肩上がりだった波が穏やかになってきたときに、自分がこれからどうしていきたいかという悩みは、女性だけじゃなく男性も、日本だけじゃなくどの国の人にも起き得る問題だと思います。そこで、私なりのメソッドを幅広く展開して多くの人に知ってもらうことで、自分らしさに気付いて動きだす人たちが増えたらいいですね」

      
岩橋ひかり(いわはし・ひかり)
【略歴】熊本県生まれ、福岡県久留米市育ち。お茶の水女子大学生活科学部卒業、同大学院ライフサイエンス専攻修了。株式会社アイワイバンク銀行(現セブン銀行)入社後、広告、企画部門を経て、人事部門にて新卒採用やダイバーシティ推進等に従事。第二子出産後、「女性がライフステージの変化に柔軟に、才能を活かしながら幸せに生きていける社会の実現」を目指して、2015年に独立。2017年株式会社MYコンパスを設立し、女性に特化した個人向けキャリアコンサルティング事業を開始。コミュニティ型オンライン講座「MYコンパス・アカデミー」のプログラム開発、講師育成、運営を行う他、女性向けキャリア講座やセミナーに講師として多数登壇。2020年3月2日に初の著書『最強のライフキャリア論。(時事通信社)』を出版。
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
積極的に行動することで経験は積み重なり、物事に柔軟に対応できるようになっていきます。頭では分かっていても、何から始めていいのか分からず腰を上げられなかったり、失敗を恐れて決断できずつい立ち止まってしまいがちです。すべての思い込みを取り払い、自分の興味をしっかり理解してから選択することで、キャリアは好転していくのかもしれません。自分のことも、意外と分からないものです。

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