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憂鬱な雨をブランディングに活かすレインコートブランド

文=尼口友厚(ネットコンシェルジェ CEO)雨を楽しむ意義を見出した「Stutterhem」

独自の価値観を持つブランドの強さ


 Stutterheimはこれまでになかった高いデザイン性をもつレインコートやアウターコートを販売している。値段は安いもので230ドル(約2万7700円)、高いものは600ドル(7万2000円)ほど。

 レインコートのデザインはスウェーデンの漁師たちが着ていた伝統的なコートの素材を踏襲したもので、ラバーコーティングを施したコットンが使用されている。またデザインも同国の伝統的なスタイルを引き継ぎ、それをより現代的なものにアップグレートしている。一般的なコートと見まがうほどの洗練されたスタイルが大きな強みだ。

 多くの人々がStutterheimのレインコートにお金を払ったのには、デザイン以外にも理由があったようだ。同サイトはブランドが軌道に乗った後は度々コンテストを開き、雨曇りの憂鬱さを表した写真や憂鬱な天気を楽しんでいる人の写真などを募って自社サイトやInstagram、facebookに掲載した。

 この試みは、Stutterheimが人々が雨についてどう思っているのか、人々のライフスタイルにどう影響しているのか、といったことを多くの人と話して理解を深めた結果として行ったものだという。

 調査の結果、多くの人が雨を見ると気持ちがブルーになると答えたが、その一方で、スウェーデンが世界的な作家や映画監督を多く輩出しているように、雨を見て憂鬱になるという感情は、創造性にも深い関わりがあるのではないか、ともスタッフは考えた。そこでレインコートを通して雨をポジティブに考えられるようなブランド作りを行うようになったのだ。「憂鬱と創造」と題したページには、このようなことが書かれている。

 “憂鬱を感じることは、創造性を刺激します。憂鬱を通して私たちは世界の新しい見方や生き方を考えるようになるのです。スウェーデンの憂鬱、雨を受け入れましょう。”

 高いデザイン性と理念をもっているレインコート

 ファッショナブルなレインコートの製造・販売と、雨をより肯定的に感じられるようなブランド作りが奏功してか、Stutterheimは大手のブランドではないにもかかわらず海外のセレブからも注目され、ニュージーランドの歌手Lorde、米国のラッパーKanye Westなどにも愛用されるレインコートブランドとなっていった。

 2013年には1100万スウェーデンクローナ(約1億6090万円)、翌年は2300万スウェーデンクローナ(約3億3650万円)、さらに2015年に5500万スウェーデンクローナ(約8億460万円)の売上をあげるまでに成長したという。

 このブランドの独自性はレインコートという機能に特化した製品に、デザインの改良の余地や「雨を楽しむ」という意義を見出した点だろう。自分たちの製品やサービスが人にとってどんな意味を持ちうるのか深堀りし、それを伝えることで、ブランドはより輝くはずだ。
山口豪志
山口豪志 Yamaguchi Goushi Protostar Hong Kong 董事長
雨の日、外出や行動が制限されてしまうのは世界共通の悩み。その雨天を楽しくするための道具、それに課題意識を設定して憂鬱に向き合うというこの企業はとても好感が持てるし、こういうブランドストーリーはとても価値が高いと感じる。共感型のビジネスは益々伸びて拡がって行くだろう。

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