人工呼吸器を一気に月産1万台へ引き上げる旭化成、6年前の米社買収が生きた!
新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大を受け、人工呼吸器を現在の生産数の約25倍である月1万台生産する旭化成。同社傘下の米ZOLL Medical Corporationが米国内の部品メーカーから供給を受け増産する。同社製の人工呼吸器は高性能のフィルターを搭載し医療体制の整っていない現場でも患者と医療従事者の双方に使いやすい。
同製品は細菌やウイルスを除去するフィルター、薬液用フィルター、生物濾過装置などを取り付けることができ携帯性や耐久性に優れる。
新型コロナウイルスの感染拡大で世界的に人工呼吸器の需要が高まっており、海外企業を中心に増産が相次いでいる。
日刊工業新聞2020年3月26日
米子会社が買収
旭化成傘下で米国の救急救命医療機器大手ゾール・メディカル(マサチューセッツ州)は29日、米国の携帯用人工呼吸器メーカーであるインパクト・インストゥルメンテーション(ニュージャージー州)を買収したと発表した。買収額は非公表。ゾールが持つ心機能系を中心とした救命救急医療機器に、呼吸器系の製品ラインアップを加えることで競争力強化につなげる。
インパクトは1977年設立で社員数は約170人。携帯用の自動救急人工呼吸器・吸引器などの設計を手がけ、軍関連の船内、ヘリコプターなどの機内のほか、医療機関で使われている。
ゾールは救急機関向け除細動器や血管内にカテーテルを通して心肺蘇生後の患者に必要な体温冷却を行う機器を販売しており、インパクトと補完関係が得られると判断した。
日刊工業新聞2014年10月30日
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ゾール買収
旭化成は米国の救命救急医療機器大手のゾール・メディカル(マサチューセッツ州)を22億1000万ドル(約1817億円)で買収する。藤原健嗣社長が「過去の買収案件と比べて買収額が1ケタも2ケタも違う」と話すとおり、旭化成の買収案件で最大となる。旭化成は2011年度から5カ年の中期経営計画で新規事業やM&A(買収・合併)に4500億円を費やす計画を打ち出している。その半分近い額を使って買収するゾールの概要を探った。
旭化成は、15年度までの5カ年中期経営計画で医療分野の新規事業創出プロジェクトを立ち上げた。その3本柱が救命救急医療、ITを活用した在宅医療、細胞・再生医療だ。ゾール買収は救命救急医療の事業基盤獲得につながり「(これまでのM&Aとは)覚悟が違う。世の中のニーズに合った旭化成のこれからのビジネスの柱にしたい」と、藤原社長は話す。
米ナスダック上場のゾールは1980年設立で11年10月時点の社員数は1908人。11年9月期の売上高は5億2370万ドル(約437億円)、営業利益は4821万ドル(約40億円)。生命蘇生技術を核とした救命救急領域に特化した医療メーカーで、01年から10年間の売上高の年平均成長率は16%に達する。
ゾールの成長の原動力となったのは、心停止リスクのある患者に電気的な刺激を与えて心臓の働きを回復する着用式の除細動器「ライフ・ベスト」だ。通常の除細動器は体内植え込み型が主流だが、ゾール製品は肩ベルトとボディーベルトで除細動器を固定し、着脱可能な着用式なのが特徴だ。同製品の11年の売上高は1億1100万ドル(約93億円)。日本では未発売だが米国で5万人が使用し、ドイツなど欧州展開を進めている。06―11年の同製品の売上高の年平均成長率は79・2%に達する。
ゾールは米国の医療・救急機関向け除細動器シェアで3分の1強を持つ最大手。血管内にカテーテルを通して心肺蘇生後の患者に必要な体温冷却を行う機器「サーモガード」も11年に売上高2600万ドル(約22億円)を記録した。緊急車両の派遣情報、患者情報などの情報を消防署や救急機関が共有できる情報システムも1500団体以上に提供している。
ゾールは除細動器や体温調節機器に代表されるオンリーワン製品の開発力に加え、製品販売で培った学会や医療機関とのネットワークを構築している。「救命救急事業の展開に必要な基盤を迅速に構築すべく、圧倒的な存在感を持つ米国の救急救命機器市場で強い事業基盤を持つゾールの買収に動いた」(藤原社長)格好だ。
ただ、ゾールの売り上げの75%は北米。日本やアジア新興国での存在感は小さい。そこで旭化成が医薬・医療事業で得たアジアの医療現場向けマーケティング、アジア向け製品開発、法制度への対応などの情報をゾール社と共有。富裕層の拡大や高齢化の進展が進む中国を中心に、救命救急機器の需要増が見込めるアジアでの事業展開を加速させる。ゾール社の製品のアジア販売力強化に向けた新たなM&Aも検討する見通しだ。
日刊工業新聞2012年3月19日
※内容・肩書き当時のもの