ニュースイッチ

鉄道維持のカギを握る無人運転、JR各社が本格着手

鉄道維持のカギを握る無人運転、JR各社が本格着手

JR九州が昨年末に公開した香椎線での自動運転機能の実証実験

JR西日本は、将来の無人自動運転を念頭に、自動で列車を走行させる試験を大阪環状線で実施した。すでにJR東日本は山手線、JR九州は福岡県の香椎線で、ドライバーレス自動運転を目指した実証に着手。JR各社はこれまで、ハード面で課題が多いこともあって、在来線に自動運転を導入してこなかった。労働力不足や利用客減少への懸念を背景に、それぞれの路線事情に応じた自動運転技術に取り組み始めている。(小林広幸)

【導入コスト抑え】

JR西は2月に入り計4回、営業車両「323系」を使い、終電後に大阪環状線の大阪―京橋間で運転士が乗務して走行試験を行った。ロードマップは今のところ明確ではないが「将来、環状線と桜島線で無人運転の実用化を目指す」という。

地下鉄や新交通システムに普及している鉄道の自動運転は、ホームドアの設置や人が容易に立ち入れない線路構造などが条件だ。環状線は踏切がなく、ホームドア設置さえ進めば条件にかなう。

技術面で壁となるのは保安システムだ。環状線は、運転士が操作を誤った時に自動で列車を止める、自動列車停止装置(ATS)線区。山手線のように連続的に走行速度を制御する自動列車制御装置(ATC)線区ではない。従来の自動運転はATC上で連動する自動列車運転装置(ATO)を列車に搭載することで実現している。

JRの在来線は約98%がATS区間。ATSはあくまで運転士を支援する装置だが、これを使って自動運転ができれば、導入コストを大幅に抑えられる。

JR西はP型、JR九州はDK型と種類こそ異なるが、ATSベースのシステム開発に取り組む。両社のATSは、列車の速度を常時チェックして、仮想的にATCのような連続制御が可能だ。安全を担保しつつ、安価な自動運転システムの実用化につなげる。

【鉄道維持のカギ】

JR各社が自動運転で狙うのは、持続可能な鉄道システムの構築だ。運転士育成は約8カ月かかるため、「車掌以上、運転士未満」(JR九州自動運転プロジェクトの青柳孝彦主査)の乗務員が、車両前頭に添乗するドライバーレス運転は、労働力不足対策に有効。添乗員の役割や資格定義など、国の検討委員会でも議論が進む。

JR西とJR東は都市鉄道、JR九州は地方鉄道と、路線特性は異なるが、自動化の追求は共通課題だ。自動運転は乗り心地も重要な要素。JR東も当初は「運転士の方がなめらかで消費電力量も少なかった」(得永諭一郎執行役員)という。

JR東は山手線で高度な自動運転の実現を目指す。2018年末と19年9月に実証。運転士参加による改善もあり、乗り心地も含めて成熟度は高まってきた。深沢祐二社長は「これからも何回か試験をやっていく」と明かす。遅延などに合わせて、駅間のスピードを調整するようなATOを開発中。実用化時には運行管理システムと連携させ、輸送ニーズに合わせた柔軟な列車運行実現も視野に入れる。

JR九州は香椎線で今後、運転士が乗車して営業運転中の実証も見据える。新しいシステム導入は法令をクリアーしなければならない。古宮洋二取締役は「安全性を確かめ、国に認めてもらいたい」と話す。踏切のある地方線区で簡易に導入できる自動運転システムは人口減少地域での鉄道維持のカギを握る。

日刊工業新聞2月20日

編集部のおすすめ