90年代後半以降に生まれた「Z世代」の中高生、企業と共鳴しあう関係に
中学生や高校生、大学生による「モノ・コトづくりコミュニティー」が始動した。マーケティングや事業開発のアイデア発想などで、企業と共創を行う。1990年代後半以降に生まれた彼らは「Z世代」と呼ばれ、幼少時から身近にスマートフォンなどのデジタル技術があり、消費や働き方についても他の世代と異なる感覚を持つ。イノベーションを起こす上で企業はもっと彼らを知る必要がありそうだ。
Z世代のモノ・コトづくりコミュニティーの仕掛け人は、デザイン思考などを使って子どもの創造力を育む教育事業を展開するCurio School(キュリオスクール、東京都目黒区)。中学・高校生と企業が一緒に課題解決のアイデアを競う大会「Mono―Coto Innovation(モノコトイノベーション)」を過去5年開催してきた。
同大会発のアイデアから商品化されたモノや、参加した学生が起業したケースもある。小さいながらも着実に新しいアイデア創出の流れを生み出してきた。このほど立ち上げたコミュニティーは同大会の参加者が母体だ。大会に参加した中高生が大学を卒業するまで所属できる。現在の参加者は約350人。今後、大会に参加した百数十人が新たにコミュニティーに加わる。
ここでは、企業からのリクエストを受け、年間を通して共創を行う。共創のやり方は4種類あり、一つは未来シナリオをブラッシュアップする「未来策定型」。もう一つは、モノコトイノベーション大会で行ってきたプロトタイプの制作と価値検証を行う「事業開発の種づくり型」。他に、企業が設定したテーマに関連してZ世代の生活実態を把握する「マーケティング型」、将来の採用につなげる「採用型」がある。
キュリオスクールの染谷優作取締役は、「学生が企業と共創できるチャンスを増やしたい」と、コミュニティーづくりの狙いを説明する。従来の大会では、予選に出場した学生約200人のうち、決勝に進む約20人が4カ月かけて企業とプロトタイプづくりを行っていた。20年からは学生のみでアイデアを競い、全員がコミュニティーを通じて企業と共創する機会を得ることができる。
すでに共創は始まっており、「未来策定型」ではIT企業と、「マーケティング型」では菓子メーカーと活動を開始。「事業開発の種づくり型」もプロジェクトが進んでいる。今後、自分のアイデアを形にできる若者が1人でも多く生まれることが期待される。
リアルな課題に答え出す
Z世代の学生たちは企業が持つリアルな課題にどのような答えを出すのか。カシオ計算機は19年大会で、昨今の働き方改革にちなみ、「あなたの身の回りの『働く』をうきうきさせるモノ」を課題に出した。これに対し、女子高生4人組の「あねーず」は、学校の文化祭の模擬店を多数決で決め、クラスみんなで協力する場面を想定した。多数決は意外とくせ者で、少数派となってしまった人が非協力的になることもある。そこで「案が持つメリットに共感する大きさ」で投票する仕組みを考えた。
具体的には、タブレット端末にそれぞれの案をなぜやりたいのか、複数のメリットを書き出す。投票する時はメリットに対して絵の具のチューブ型デバイスを実際にぎゅーっと絞って投票する。絵の具を絞り出した広さが共感の大きさだ。共感の大きさを調節しながら、1人で複数のメリットに投票できる。この方法であれば、模擬店が「クレープ屋」に決まっても、衣装デザインがしたくて「演劇」に投票した人はクレープ屋の衣装をデザインするなど、少数派の希望もくみ取れる。
本田技術研究所のテーマに挑んだ4人組は、小学生が高齢者の荷物を持って、手助けできるモビリティーを考えた。普段はランドセルと背中の間に挟んで持ち運び、展開すると、クローラー付きの台車になる。高齢者の買い物と小学生の下校が同じ時間帯だという経験がアイデアの源泉となった。
19年大会で1位に輝いたのは、「予防医療」のテーマに対し、スマホ依存を減らすアイデアを考えたチーム「リコピン」。スマホは友だちとの大切なコミュニケーション手段だが、眠くても返事をしたり、やりたい事ができなくなったり、ストレスの原因にもなる。
そこでスマホをクマのぬいぐるみ「キロン」に預けると、自分の替わりに「今スマホから離れている」と友達に伝えてくれるアイデアを考えた。キロンを介した温かみのあるコミュニケーションがポイントだ。同チームはライオンが支援した。
Z世代の中で最も上の95年生まれは、年代的には既に大学を卒業し、社会人になっている。コミュニケーションや環境問題、起業などに興味を持つ彼らの嗜好(しこう)が消費を動かす日は近づいている。
(取材・梶原洵子)