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苦悩する地銀の活路なるか、山口FGのユニークな地方創生

苦悩する地銀の活路なるか、山口FGのユニークな地方創生

愛媛銀と「西瀬戸内パートナーシップ協定」を締結。瀬戸内の主要産業を強化して地方創生を進めると吉村社長(左)(1月22日山口FG本店)

山口フィナンシャルグループ(FG)がユニークな地方創生の取り組みで存在感を増している。1月末に愛媛銀行と海事産業振興を目的に業務提携したほか、3月には農業法人を設立して農業分野に参入する。いずれも疲弊する地域産業を再生して中長期的な収益確保につなげるのが狙い。金融という既存の枠を超えて課題を解決し、地方の価値向上に活路を見いだそうとしている。(取材=北九州支局長・大神浩二)

山口FGの中期経営計画には「コンサルティングやデジタルデータを通じて既存銀行モデルを深化させる」とある。背景に少子高齢化による人口減と資金需要の低迷に苦しむ地方銀行の苦悩がある。

愛媛銀行とは「西瀬戸パートナーシップ協定」を結び、造船や観光が盛んな瀬戸内地域の振興に共同で取り組む。愛媛銀が持つ海事産業と、山口FGの地方創生や保険、コンサルタントのノウハウを共有して「付加価値の高い金融サービスを双方の顧客に提供する」(吉村猛山口FG社長)。資本提携や経営統合は行わないという。

農業法人では就業者の高齢化や産地縮小が深刻化していることから、持続可能な農業モデルを構築して農産物の付加価値向上を目指す。まずは、かつて全国有数の産地とされたワサビを選び、10月に営農を始める。以後、広島・山口・福岡3県で担い手不足から苦戦する農産物や果樹を選び、グループ会社と連携して再生を進める。

ほかにもフィンテック(金融とITの融合)やユニコーンファンド創設、副業可能な首都圏人材の紹介、外国人観光客向けオープンイノベーション組織創設など新規事業を相次いで立ち上げており、新たなビジネスモデルを創出する。

九州・山口は高齢化率が高く、金融各社は生き残り策を模索している。ふくおかフィナンシャルグループは十八銀行の経営統合を完了。15年に誕生した九州フィナンシャルグループは、クラウドファンディングの共同会社を設立して中小企業向け融資の強化に乗り出した。

山口FGも含めて各社の再編が進み、営業エリアが広域化して競争は激しい。一方で長引く低金利や異業種参入が経営を圧迫しており、既存ビジネスモデルからの脱却が急がれる。吉村社長は「資金仲介が銀行の重要な役割だったが、今後は地元経済が不足しているものを補う必要がある。そのための投資は惜しまない」と、新たな事業創出に積極的に関わる考えだ。

日刊工業新聞2020年2月4日

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