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生き残りかけて地銀が全国戦略、ふくおかFGの「みんなの銀行」は試金石に

スマホアプリが誘客基盤に
 ふくおかフィナンシャルグループ(FG)が“域外”に向けた戦略を深化させている。2020年度の開業を目指す地銀初のインターネット専業銀行は地銀の枠を越えた全国がターゲット。今年10月末のサービス開始を見込む地域総合商社事業でも、九州の製品に特化しつつ自社開発アプリケーション(応用ソフト)を通じた他地域への展開を目指す。(取材・三苫能徳)

 ふくおかFGは7日、ネット専業の「みんなの銀行」の開業計画を発表した。「銀行自身が『銀行』を再デザイン、再定義する」(同社)と打ち立て、新たな銀行像を描く。

 幼い頃からデジタル技術に親しむ世代に向け「デジタルネイティブバンク」を掲げる。アナログで画一的な既存の銀行サービスと差別化し、今後の金融取引でボリュームゾーンとなるミレニアル世代を獲得する。ITや流通など異業種の参入が激しい金融界で、デジタルトランスフォーメーションによるディスラプション(破壊的創造)に乗り出す。

 2日には地域総合商社事業に乗り出すことも明らかにした。地場中小メーカーの製品を、開発やブランディングから一貫して支援。電子商取引(EC)サイト「エンニチ」を通じ販路を提供する。

 誘客基盤の一つは、16年に立ち上げたスマートフォンの収支管理アプリ「Wallet+(ウォレットプラス)」。ダウンロード数が累計80万となるなど実績を積み上げており、広島銀行、沖縄銀行にもサービスを提供している。20年度に事業単体で黒字化できる見通しだ。

 ふくおかFGの柴戸隆成会長兼社長は「いろいろな部分でビジネスにプラスになっている。着実に環境にマッチして動いている」と評価する。

 ウォレットプラスの企業向けマーケティング機能では、貯蓄できるアプリという特性から、現在は家や車など高額商品が中心。ECサイトの追加で少額商品にも誘導できるよう対象を広げる。地盤の九州から始めるが、広島と沖縄のほか、導入準備を進めている他の地銀を通じた域外への拡大も見据える。

 福岡銀行を中核とするふくおかFGは、九州内で域外展開を積極化し地銀再編の流れをつくった。熊本、長崎で3行を傘下に収め、総資産24兆円超の巨大地銀グループになった。次はネット銀行で全国に版図を広げる。

 マイナス金利の長期化や異業種参入など、銀行の経営環境は厳しい。地銀にとって地域の垣根は守りにも障害にもなった。成長のため、その壁を地銀自身で崩さざるをえない状況だ。

 ただ、地縁に頼らない「ゼロベース」(ふくおかFG)でつくるネット銀行は、顧客獲得もゼロから。コード決済や暗号資産など、金融サービスは多様化している。若いユーザーには銀行自体の存在意義からアピールが必要かもしれない。その中でいかにサービスのメリットを訴求できるかが次の世代をつかむカギになる。
                 

名古屋第二地銀3行、業務改善を模索



 マイナス金利政策で業績が圧迫され「本業赤字」に陥っている地銀は全体の半数を超える。名古屋に本店を構える第二地方銀行の名古屋銀行、愛知銀行、中京銀行の3行も例外ではない。PBR(株価純資産倍率)は0・2―0・4倍程度と低迷が続くが、各行ともに特徴を生かした事業に取り組み、あの手この手で現状打破を目指している。

 金融庁が地銀の業績を見る上で2016年から使う「本業赤字」の考え方で計算すると、地銀は106行のうち約半数の54行が本業赤字に陥った(18年9月公表分)。本業利益を計算すると、名古屋銀が3億7800万円、愛知銀が49億3000万円、中京銀が25億6700万円の赤字になる。

 三井住友DSアセットマネジメントの高橋良平アナリストは「昨年ごろから与信費用が出るようになり本業利益は悪化傾向にある」と話す。貸出金利は全国で下がっており、09年に2%程度だった平均利回りは1%弱に落ち込む。金利競争が激しく、「名古屋金利」と言われたこの地域だが、「先に下がっていたところは下げ渋っているとも考えられ、ほぼ最終局面だろう」(高橋氏)との見方もできるようだ。

 そんな中で全国の各行ともに事業継承の仲介などのソリューション業務に注力するほか、愛知県の3行は独自の取り組みで差別化を図っている。

 規制が厳しく進出が難しい中国に支店を持つ地銀は全国で3行のみだが、名古屋銀もその一つ。11年にトヨタ自動車の研究開発拠点(常熟市)から近い南通市に支店を開設した。「中国の経済減速が懸念されているが、元の需要は伸びている」(広報担当)という。

 愛知銀は、投資信託についてリスクの高い外債投信を中心に大幅圧縮する一方、オルタナティブやマルチアセット型など分散型に一部資金を振り向ける。全国の地銀15行などと出資するオールニッポン・アセットマネジメント社に県内唯一参画。中期経営計画では店舗の統合や店舗外ATMの削減、小規模化など合理化を掲げる。

 中京銀は契約をタブレット端末で行う投信・保険ナビシステムを本格稼働。手続き時間を短縮した効率的な営業を推進していく。さらに17年7月にはフィンテック推進室を設置し、IT技術革新に対応する態勢を構築。フィンテック企業などと連携してキャッシュレス化を進めている。

日刊工業新聞2019年8月15日( 金融・商況)

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