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WRSトライアルで光った、幼児が言葉を覚える過程をロボットで再現する試み

WRS2020 いざ本番へ トライアル大会(下)

国際ロボット競演会「ワールド・ロボット・サミット(WRS)」トライアル大会のコンビニエンスストア部門では基礎的ながらキラリと光る技術が披露された。コンビニで働きながら場所や行為などの概念をロボットが獲得する試みだ。人間の赤ん坊が「ママ」などとしゃべり始めるように、将来ロボットが初めて獲得する言葉は「いらっしゃいませ」になるかもしれない。(取材・小寺貴之)

ディープラーニング(深層学習)を筆頭に人工知能(AI)技術はロボットの認識を飛躍させた。画像認識や音声認識の性能が向上し、店舗の雑音下でも7―9割の音声認識が実現した。単語の認識精度は9割、長文もマイクが整った環境なら9割程度に精度が上がってきた。金沢工業大学の出村公成教授は「ロボットにできる仕事が広がった」と振り返る。

それでも京都大学の河原達也教授は「マイクから離れ、長い言葉の認識になると6―7割に精度が下がる」と指摘する。また音声を単語に変換しただけでは接客はできない。出村教授は「本当に知的な情報処理が求められている」と説明する。ここでロボットの概念獲得という難題にぶつかる。

【データ学習】

WRSでは立命館大学のロトフィ・エル・ハフィ研究助教らがロボットが働きながら、お客や従業員、商品などを観測して概念を作る技術を披露した。普段はロボットが警備や商品紹介、周辺施設への道案内などのルールベースのタスクをこなす。同時にコンビニで起きることを観測しデータをためる。音声や画像、自身の行動などを結びつけ、確率分布を用いて学習していく。

シミュレーターで構築したコンビニの商品棚やトイレ、レジなどの場所の概念を学習させた。ロトフィ助教は「より広いタスクが担えるようになる」と展望する。コンビニで頻繁に起きるのは「いらっしゃいませ」というあいさつだ。ロボットが最初に獲得する概念は、来客と、客を迎えるあいさつになるかもしれない。

【難題挑戦へ】

WRSではトイレ掃除や商品の陳列廃棄などの種目に分かれて技を競う。トライアル大会ではトイレ掃除種目で大阪電気通信大学が優勝。大電大の鄭聖熹(ちょん・そんひ)教授は「ローテクを確実に動かし得点を伸ばせた」と振り返る。

接客種目は中央大学が優勝。店舗空間にセンサーを配置し、ロボットと連動して商品推薦や案内などを披露した。中央大の新妻実保子准教授は「空間の知能化を実際に動くシステムとして示し評価された」と目を細める。ロボットと空間センサーは単独でも有効だが、組み合わせることでサービスが広がる。

商品陳列種目は奈良先端科学技術大学院大学と立命館、パナソニックのチームが優勝した。リーダーのガルシア・グスタボ奈良先端大助教は「次は安全性を担保したまま作業効率を上げたい」と力を込める。個々のタスクが仕上がると、概念獲得のような挑戦が花開くことになる。

小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
各チームが接客や棚だしなどのタスクをコツコツ解いている裏で概念獲得のような野心的な研究が走っています。まずは場所や動作、行為と、言葉を結びつけます。例えばトイレは店舗のどこにあり、お客さんが駆け込んでいく所、定期的に従業員やロボが掃除している所などと、「トイレ」に対して人の関わり方や何があるところと情報をつなげていくことになります。幼児が言葉を覚えていく過程をロボットで再現する試みです。実現するとコンビニに限らず、警備や介護など、幅広い場面でロボットが世界を学ぶ基盤になると思います。

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