国際ロボット競演会「WRS」本大会へ、熱戦の「試行」で得た確信
2019年12月に開かれた国際ロボット競演会「ワールド・ロボット・サミット(WRS)」のトライアル大会は、競技課題の難度が上がり、どの参加チームも苦戦した。競技の運営側にとっては狙い通りの結果になった。10月の本大会に向けて各チームにはレベルアップが求められる。熱戦のトライアル大会を振り返る。(取材・小寺貴之)
【運営は満点】
「運営は百点満点。検証項目は達成できた。参加チームのパフォーマンスが付いてくれば素晴らしい大会になる」と、ものづくり部門の競技委員長を務める横小路泰義神戸大学教授は顔をほころばせる。トライアル大会は10月の本大会に向け、競技の難度調整や参加者のレベル向上の役割がある。そのため2018年のプレ大会から難度を引き上げ、各チームがどのように苦戦するか検証した。ものづくり部門ではベルト駆動ユニットの精密組み立てを競う。トレーに混載された部品のピッキングと組み立てをつなげて一連の課題とした。
【大きな成長も】
このピッキングに参加した4チームとも苦戦した。トレーの中で部品が動き部品同士がくっつくと、ロボットハンドの爪が入らず、つまめなくなる。ピッキングに時間がかかり組み立てが間に合わなかった。運営側の産業技術総合研究所の河井良浩知能システム研究部門長は「組み立てができないわけではない。この経験を共有して全体のレベルアップを図りたい」という。
大きく成長したチームもある。有志の技術者6人で参戦した「ガラージ・ロボティクス」は混載部品の認識やピッキングに成功して2位になった。1位の「FA・comロボティクス」とは組み立てたネジ1本の差しかなかった。
ガラージの特徴はディープラーニング(深層学習)を用いて認識系を構築した点だ。メンバーのナレッジ・ビー(大阪市中央区)の高田富明代表は「オープンソースを駆使してコストを抑えた」と振り返る。同チームは18年プレ大会では振るわなかった。コストをかけずに1位に肉薄した。横小路教授は「成長ぶりを表彰したいくらいだ」と目を細める。
【課題発見】
ロボットによる精密組み立ては産業界でもまだ途上だ。多くの場合はFA装置として単工程を自動化する。WRSのように多品種の組み立てを一つのロボットシステムで担う例は「先端を行き過ぎる」という声もある。
それでもFA・comのリーダーを務めるオフィスエフエイ・コム(栃木県小山市)の五十畑淳部長は「初期投資はかかるが、段取り替えなどのランニングコストを抑えてトータルで勝負できる」と挑戦の意義を説明する。金沢大学の渡辺哲陽教授は「ネジ締め一つにも、大学研究者が気付いてない課題がいくつもあった。WRSで産学連携が生まれ、技術が実用化されていく。WRSを起爆剤にしたい」と力を込める。
【追記】
ガラージロボティクスはオープンソースの深層学習とテンソルフローで部品の認識系を安く作りました。14種の部品を認識するために、角度を変えて37種のパーツとして認識、400枚ほどの教師データを作成しています。本番用の照明環境やトレーで学習するため、会場で写真を撮ってホテルでアノテーションしています。これを手軽と感じるかどうかは分かれますが、バラ混載の認識系構築に苦労したことがある人は手軽と感じる場合が多いのではないかと思います。この方法ならユーザーに任せたり、遠隔でサポートできるかもしれません。
出典:日刊工業新聞2020年1月8日
【動画必見】コンビニ部門では客の往来想定 “空気読んだ”サービスも
出典:日刊工業新聞2019年12月20日
国際ロボット競演会「ワールド・ロボット・サミット(WRS)」の2020年の開催に向け、「ものづくり部門」「コンビニ部門」のトライアル大会が19日、東京ビッグサイト(東京都江東区)で始まった。ものづくり部門は4チーム、コンビニ部門は10チームが参加し、工業製品の精密組み立てや店舗での接客・商品陳列の技を競う。どちらも稼ぐことを強く求められる分野だ。(取材・小寺貴之)
【2部門で火花】
WRSは経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主催し、「2019国際ロボット展」の併催企画として実施。競技会には世界からエンジニアや学生が集まり、社会課題を解くために技術を競う。今回は「製品組立チャレンジ」「フューチャーコンビニエンスストアチャレンジ」の2競技がトライアル大会として公開された。
NEDOの石塚博昭理事長は「コンビニとモノづくりは普段目に触れる場と見えない場。この両方で働くロボットの姿を示すことが大切」と説明する。少し先の未来において、身近なコンビニで働くロボットと工場で黙々と働く最先端のロボット。この対照的な二つの姿を紹介することで、ロボットの普及に向けて社会受容性を広げる。同時にトライアル大会は競技者の技術レベルを引き上げつつ、競技課題の難度を調整する役割がある。
「前回から難度を引き上げた。何チームがついてこられるか」。ものづくり部門競技委員長の横小路泰義神戸大学教授はにやりと笑う。同部門はベルト駆動ユニットをロボットで組み立てる。軟らかく不定型なベルトや小さな芋ネジを扱う技術が求められる。18年のWRSプレ大会ではユニットを完成させたのは16チーム中1チームだけ。もともと難しい課題であり、さらに難度が上がった。例えば無人搬送車(AGV)でパーツの入ったトレーを供給する。トレー中には14種のパーツを混載。搬送中にトレーが傾けば、大きいパーツの陰に小さなパーツが隠れるなど認識や把持が困難になる。
さらにモーターの電気配線を通電端子に接続する作業を求めた。ロボットは適当に置かれた配線端を探して、配線が絡まないように軌道を計画して接続する必要がある。
「ガレージ・ロボティクス」チームはパーツ認識にディープラーニング(深層学習)を取り入れた。認識率は高く、一つひとつトレーから取り出して治具に投入する。治具で位置決めをして組み立てに進む。金沢大学と信州大学の「JAKS」チームは力覚センサーと触覚センサーを駆使する。力触覚でパーツのつかみ具合を判断して、はめ合いなどの精密作業をこなす。ただ力触覚を使う前の画像認識でつまずいた。金沢大の辻徳生准教授は「パーツの切削紋が変わり、画像認識が不安定になった」とリカバリーに奔走する。
【注目浴びる】
ものづくり部門のロボットは普段目に触れることがないにも関わらず、「FA.comロボティクス」チームのブースには黒山の人だかりができた。FA.comは前回、製品を完成させた唯一のチームだ。メーカーの生産技術者やシステムインテグレーターの技術者が集まり、その技術をつぶさに観察していた。チームリーダーを務めるオフィスエフエイ・コム(栃木県小山市)の五十畑淳部長は「ピッキングの難度が跳ね上がったが、ここをクリアできれば完成させられる」と自信を見せる。
【店舗に近く】
コンビニ部門はロボットによる接客や商品陳列、トイレ掃除を競技化。トライアル大会ではロボットが陳列や清掃の作業していると人が近寄ってくるという、現実店舗に近い課題に設計した。ロボットは人が来たら作業を中断して場所を空け、人がいなくなったら作業に戻る必要がある。競技の部門長を務める和田一義首都大学東京准教授は「人とロボットの共存を求めた」と明かす。コンビニにロボットが導入された直後は、その珍しさからお客がロボットに配慮してくれるが、慣れてしまえばロボットが空気を読む必要がある。
【交流の場】
競技フィールドも追加された。未来のコンビニとして公園に溶け込んだコンビニのステージを用意。オープンな環境に商品棚を並べ、ロボットによる接客サービスを提案する。店舗で買い物をするだけではなく、世代を超えた交流を促しコミュニティーのハブになる。金沢工業大学の出村公成教授は「未来のコンビニが自動化された無人店舗だと味気ない。生活のハブとして、そこで働くロボットにもサービスが求められていく」と展望する。接客種目では各チームが自由に新しいロボットサービスを提案できる。金沢工大はイートインに来た高齢者にロボットが食品を運んだり、大人が会計中にロボットが子どもと遊んで迷子を防止するサービスを提案する。
商品陳列の課題では商品棚の棚の間隔が25センチメートルと狭い。ロボットのアームを棚の間に入れて作業する空間はほぼない。そこで棚を引き出し型に改造するチームが増えた。名城大学は引き出しを自動化した。人型ロボットと自動棚が連動して作業スペースを確保する。チームリーダーの四位茉祐果大学院生は「ロボットが働きやすい環境は人も働きやすい」と説明する。
ロボットを導入するには自動棚など、働く環境の変更も必要になる。この環境投資が膨らむため導入ハードルは低くない。ロボットが働く未来の姿や新しいサービスを提案することで、このハードルを越えていく必要がある。競技は21日まで繰り広げられる。