ファウンダー・孫泰蔵さんが教育プロジェクトを立ち上げた理由
Mistletoe Japan(ミスルトウジャパン、金沢市)の孫泰蔵ファウンダーと東京学芸大学が立ち上げた教育のオープンイノベーションを進めるプロジェクト「エクスプレイグラウンド」では「遊び」と「学び」、「社会変革」をシームレスにつなぐ。教育と起業家アクセラレーターが組んで、従来の起業支援にも、公教育にもない、新しい何かをつくっている。仕掛人のミスルトウの孫泰蔵ファウンダーと東京学芸大の松田恵示副学長に聞く。まずは孫泰蔵ファウンダー。(聞き手・小寺貴之)
―教育に着目したきっかけは。
「これから5-10年に起こる社会の変化は、これまでの20年でおきた変化よりも大きいと確信している。1908年にT型フォードが発売され、街から馬車が消えた。2008年にiphone(アイフォーン)が日本で発売され、10年で電車ではみながスマホを触るようになった。100年に1度は、風景ががらりと変わる変化が起きる。自動車の起こした変化は道路やガソリンスタンド、信号などあらゆるものが整備されないと起こらなかった。この5-10年は、このときに匹敵する変化が起きるだろう」
「例えば私が投資している自動運転のスタートアップは2020年に衝撃的なデビューをする。自動運転で信号などの交通インフラは大きく変わる。ドライバーはタクシーのコストの7割を占めるが、ロボタクシーで不要になる。近距離の移動にお金を払うことがなくなる。車は趣味で買うことがあっても、所有からシェアに変わる。2030年や35年には『昔の人は自分で車を運転してたらしいよ。なんでだろうね』と昔話になる。社会の変化に対して、教育は大きな役割を果たしてきた。長距離を移動するために必要な能力は19世紀は馬車を操る能力だった。20世紀は自動車を運転する能力、21世紀は自動運転の人工知能(AI)を操る能力になるだろう。市民としての基礎的な能力は、19世紀の教育が読み書きそろばん、20世紀は知識を正確に習得し活用する力だ。これはAIに置き換わっていく」
「21世紀は何だろうか。私は何を大切に思っているか。もし人生の最後に、子どもに一言、残すなら何と伝えるかと考えた。親は子に自分の人生をいきいきと生きてほしい。希望をもって自分の未来を切り拓いていける子になってほしい。ただ『世界は自ら変えられる』と思えないと、そういう生き方はしない」
「私自身も、自分が日本を変えるなどとは、とてもおこがましくて言えはしない。だが日本全体がそう思っていたら大きな問題だ。21世紀に必要な能力は、未来を自ら切り拓く力だ。そして、子どもには世界は変えられると思える経験をさせたい。そのための場所を作ろうとエクスプレイグラウンドを立ち上げた」
―教育界と組んでみていかがですか。教育者と起業家は、文化がかなり違います。
「起業も教育も本質は同じだと実感した。そもそも分ける必要がない。活動の出口をビジネスにするかどうかの違いだけで、たいした差ではない。教育者はインキュベーターやアクセラレーターであるべきで、アクセラレーターは教育の延長にあるべきだ。サッカーがプロチームやユース、遊びの中のサッカーがあるように、どこでやってもいいし、プロから遊びに戻ってもいい。年齢で分ける必要もない。子どもも大人も一緒に混ざって楽しみながら学んでいけばいい。そんな場所を作る」
―昔は学校の先生が子どもに夢を語っていたように思います。いまは起業家が語る夢の方が魅力的になったのでしょうか。
「一人一人の先生は熱い思いをもっている。学校や公教育の構造的な問題が、それを難しくしている。イノベーションのジレンマのように内側から自分たちで打ち破れないだけだ。外部からのブレークスルーが必要だ。先生には本来もっている思いを形にしてほしい。もし失敗しても我々の責任にしたらいい。我々は外から来た異質な存在として機能する。こう思える先生はたくさんいる」
<連載・未来の学びの形(全3回)>
(上)「世界は自ら変えられる」が遊びながら経験できるプロジェクトの中身
(中)インタビュー/ミスルトウジャパンファウンダー・孫泰蔵氏
(下)インタビュー/東京学芸大副学長・松田恵示氏