「世界は自ら変えられる」が遊びながら経験できる、大学と起業家がプロジェクト
教育と起業家アクセラレーターがタッグを組み、「遊び」と「学び」、「社会変革」をシームレスにつなぐ試みが進んでいる。楽しく実験し遊んでいると、自分の意識や行動、周りの人の考え方を変えている。そこには学びがあり、社会は自分の手で変えられると実感する。こんな経験が、子どもでも大人でも、やりたいと思ったらできる環境が作られている。現代の学校に収まらない未来の学びの形が生まれている。(取材・小寺貴之)
「人生の最後に一言残すなら『世界は自ら変えられる』と伝えたい」―。Mistletoe Japan(ミスルトウジャパン、金沢市)の孫泰蔵ファウンダーはこうつぶやく。親は子に、自分の人生をいきいきと生きてほしいと考える。希望を持って未来を自分で切り拓いていける子になってほしい。だが「世界は自ら変えられる、と思えないと、そういう生き方はしない」(孫氏)。そこで教員養成の東京学芸大学と、教育のオープンイノベーションを進めるプロジェクト「Explayground」(エクスプレイグラウンド)を始めた。
ミスルトウが出資し、学芸大と場や創作環境を用意する。子どもや学生、社会人などが集まり、おのおの思うことを始める。自分が夢中になり、その面白さに周りが巻き込まれるとプロジェクトが立ち上がる。誰かの「遊び」から始まり、みんなの「学び」になり、いずれは社会を変えるかもしれない。こんなプロセスをミスルトウの起業家支援ノウハウで加速させる。学芸大の出口利定学長は「大人も未来を見通せない時代。子どもと一緒に取り組むことで、先生や大人が学んでいる」と説明する。
これまで25のプロジェクトが立ち上がった。滑り台を超える遊具の開発やVR(仮想現実)のスポーツ教育利用、居心地の研究など、テーマは多岐にわたる。参加者は約150人。大学生や教師に加え、高校生や保育士、約20社の企業人が参加している。
滑り台超えの遊具は1月にお披露目する予定だ。滑り台は位置エネルギーを運動エネルギーに変えるだけで、小さな子どもが夢中になる。メカも電気も不要で保守が簡単。学芸大の金子嘉宏教授は「最強の遊具への挑戦になる」と説明する。
「夜学」プロジェクトは宇宙や相対性理論などの理論物理を夜のクラブのエンターテインメントに昇華する。「只管打坐・只管打算」というパフォーマンスではダンスミュージックや照明の中で理論物理の計算を黙々と手で解く。1時間半、ブラックホールの質量が時空をゆがめる理論式が紡がれていく。小林晋平准教授は「書道家のライブパフォーマンスのようなもの」と説明する。
「さふぁり・ぱーく」というパフォーマンスでは研究者と学生の議論をそのまま見せる。その後、研究者と学生が会場に混じって観客の常識を揺さぶり疑問を増やしていく。人類が答えをもっていない謎は、誰でも気兼ねなく議論できる。わからないことを、わからないまま楽しむ。学問本来の面白さを味わっている。小林准教授は「DJや演出はまだ拙いが会場は盛り上がる。将来は1000人のハコをいっぱいにしたい」という。はやくもエクスプレイグラウンドから独立した。ベンチャーを立ち上げて事業化する。
<連載・未来の学びの形(全3回)>
(上)「世界は自ら変えられる」が遊びながら経験できるプロジェクトの中身
(中)インタビュー/ミスルトウジャパンファウンダー・孫泰蔵氏
(下)インタビュー/東京学芸大副学長・松田恵示氏