クルマからタバコまで。2019年、愛され惜しまれサヨナラした製品たち
令和という新たな時代が幕を開けた2019年。新風に乗じてさまざまなモノが誕生する一方、時代の変化に伴い終わりを告げたものもある。19年は数々の名車のほか、思い出深い製品やサービスが惜しまれながら姿を消した。それらは無に帰すわけではなく、長い歴史の一里塚となる。成長には新陳代謝も不可欠であり、それが製品やサービスを高度化し、20年以降の我々の生活を豊かにしていく。
名車、次世代技術に開発資源シフト
【トヨタ自動車 マークX】トヨタ自動車は前身の「マークII」から50年以上販売してきたセダン「マークX」の生産を23日に終了した。マークXはマークIIと合わせて約688万台を生産したが、スポーツ多目的車(SUV)やミニバン人気に押され販売が落ち込んでいた。トヨタは25年をめどに60ある車種を半分程度に絞り込む方針で、10月にはミニバン「エスティマ」の生産を終了。電動化や自動運転といった次世代技術に開発資源をシフトしている。
【日産自動車 キューブ】日産自動車は小型車「キューブ」の生産を19年内で終了する。98年に登場したキューブは小型車でありながら居住空間が広いことや運転のしやすさ、独特の外装デザインが女性や若者に受け入れられた。しかし08年に3代目の現行モデルが発売され、その後、10年以上全面改良されず、最近の販売は月数百台程度まで落ち込んでいた。厳格化する安全性能関連の規制に対応できなくなることもあり、この箱形の個性的なクルマは姿を消すことになった。
三菱自動車の代名詞とされた4輪駆動(4WD)車のSUV「パジェロ」は8月に国内向け生産を終了した。投入から37年間、オフロードでの走りなどで人気を集め、80年代後半から90年代はキャンプなどアウトドア向け自動車「RV(レクリエーショナル・ビークル)」ブームの先駆けとなった。ピークとなった92年度の販売台数は8万台超。94―95年度は三菱自の国内販売シェアが過去最高の12%を超え、同社業績のけん引役でもあった。テレビ番組の目玉景品にも選ばれるなどRVの中では国内で最も有名な車の一つが、平成の時代を駆け抜けて停車した。
独フォルクスワーゲン(VW)は、同社を象徴する存在の一つだった小型車「ビートル」の生産を7月で終了した。日本でも「カブトムシ」の愛称で知られ、丸みを帯びた独特のデザインが世界各国で好まれたが、最近は販売が低迷していた。日本では53年に輸入販売を始めた。現行のシリーズ3代目は「ザ・ビートル」として12年に販売を開始し、日本では約4万台を販売した。ルーツがドイツ・ナチス時代のヒトラーによる大衆車構想までさかのぼる名車が約80年の歴史に幕を下ろした。
スパコン「京」、「富岳」にバトン
スーパーコンピューターの性能ランキングで11年に2期連続で1位を獲得した「京」が8月にシャットダウンした。京の開発では、09年に政府の事業仕分けで「2位ではだめなんですか」と議員が発言し、有識者らが「科学を全く知らない人の言葉だ」と抗議する一幕もあった。京は日本の科学技術の力を世界に示す顔として、7年間活躍した。後継機は「富岳」。京と同様、理化学研究所と富士通がタッグを組み、京の100倍以上の計算能力を目指している。
ポケベル、携帯普及で利用者減
3470(サヨナラ)―。「ポケベル」の愛称で親しまれてきたポケットベルが登場から約50年で姿を消した。東京テレメッセージ(東京都港区)はポケベルを展開する国内唯一の事業者だったが、9月末にサービスを終了した。90年代に「1141064(愛してるよ)」など数字の語呂合わせでメッセージを送ることが若者の間で流行。ピーク時の契約者は1000万件を超えたが、携帯電話の普及とともに利用者が減り役目を終えた。
上野動物園モノレール、存続か廃止か検討
恩賜上野動物園(東京都台東区)で1957年に開業した日本初のモノレールが11月1日に運行を休止した。動物園の遊戯施設と思われがちだが、東京都交通局が運営するれっきとした交通機関だ。正式名称は「上野懸垂線」。営業区間約330メートルは国内で最も短く、乗車時間は約1分半。01年度に運行を始めた現行車両が老朽化。特殊な車両で製造に3年程度かかるほか、電気設備なども大幅な更新が必要なため、モノレール存続か廃止かを今後検討するという。国内で最も古い上野動物園も時代とともに姿が変わる。生まれも育ちも台東・上野、動物園で産湯を使ったジャイアントパンダ「シャンシャン」も中国への返還期限(20年12月末)が1年後に迫る。
紙巻きたばこ3銘柄、税率撤廃で廃止
JTは紙巻きたばこ「ゴールデンバット」「わかば」「エコー」の3銘柄を廃止した。10月以降の売り尽くしをもって販売が終了。3銘柄は特別たばこ税率の撤廃で軽減措置がなくなり、販売を続ける場合は大幅値上げが避けられないため廃止を決めた。3銘柄は、たばこ葉を原材料とした巻紙を使うリトルシガー製品(葉巻の一種)で名前が引き継がれた。1906年(明39)発売のゴールデンバットは芥川龍之介、太宰治、中原中也といった作家も愛煙し、作品内にしばしば登場する。吸われ始めて113年、明治から令和まで五つの時代に紫煙を漂わせた。