フラクタの加藤さんが「課金ゲー」を嫌いな理由
昔からコンプガチャなどを悪用したオンラインゲーム産業や、結局胴元ばかりがもうかる仕組みの仮想通貨(の交換)産業が「大嫌い」だと公言してきた。実態がなく、額に汗した努力の跡が見えず、コンピューターの能力を間違った方向で使いながら、人間の弱みにつけ込んで黒いカネを稼いでいる。またこうした企業の経営者を(彼らがどれだけお金を持っていて、それを見せびらかそうと)僕は信用しないし、尊敬していない。
半年ほど前、自宅に帰ると、6歳の娘が神妙な面持ちで食卓に向かって座っている。遠視用の分厚い眼鏡越しに見える瞳に涙を浮かべているようで、いつもと違う様子に驚いた。何も語りたくないらしい。近くに座り、時が満ちるのを待った。聞けば、iPad(アイパッド)でRoblox(ロブロックス)というオンラインゲームをやり、何も分からないままキャラクターの洋服などを購入した結果、日本円で10万円(約1000ドル)もの金額を(登録されていた僕のクレジットカードに対する課金という形で)使ってしまったとのことだった。母親に怒られ問い詰められたが、自分で状況がよくつかめず混乱して悲しくなったのだそうだ。過去の購入履歴を見るとRobloxの中でしか使えない「ゲーム内通貨」なるものと引き換えに課金が続き、合計1000ドルまで積み上がっていた。
僕にとって、金額の多寡はどうでもよかった。しかし、心の奥底で「これは、取引としてフェアじゃないな」と思った。そこで、Robloxのカスタマーサポート(お客さま窓口)に連絡することに決めた。「娘は6歳です。常識的に考えても、本人が1000ドルものお小遣いを持っているはずはありません。また年齢から推定される判断能力という意味でも、こうした購買を(それが実物通貨が必要であることを認識した上で)意識的に行ったとは考えにくいため、取引を解除いただきたく、返金を求めます」と連絡した。
すると、何やらマニュアルからのコピー&ペーストで作られた文面で、担当者から「それはアップル社のiTunes(アイチューンズ)というアプリケーション(応用ソフト)を経由して購入されたグッズだから、うちに責任はない。アップルに問い合わせろ」と連絡が来た。Robloxに責任がないわけはないのだが、アップルのカスタマーサポートは「いかなる理由であっても返金には応じかねる。Robloxと話してくれ」とのことだった。延々たらい回しにされる。なるほど、こうやって相手が諦めるのを待つんだなと、先方のやり口に閉口した。
僕が6歳のときはオンラインゲームなどなかった。駄菓子屋に行って、もし10万円を出して何かを買おうとしたならば、店のおばちゃんから「あんた、こんな大金どうしたの? 返してきなさい。おばちゃん、お母さんか先生に連絡するからね」と叱られただろう。オンラインで企業と消費者が直結した結果、その隙間を埋めてきた、ビジネス倫理が失われていく。企業において法律を守ることは必要条件に過ぎない。その先に、道徳的に正しい行いが求められているのだ。
1987年公開の映画『ウォール・ストリート』の中で、工場で働く父親は黒い金融事業に手を染めようとする息子(主人公)にこう迫るシーンがある。「楽してもうけようとするな。他人のモノを右から左に流して上前をハネるのではなく、自分の力で何かを生み出すんだ」。手段を選ばなければお金を稼ぐことは難しくはない。かつて金融事業を覆った黒い強欲が、テクノロジーの仮面をかぶり始めたことに注意を払うべきだ。
富の創造において最も大切なことは、社会全体のパイをより良い方向に膨らませ、自らはそのパイのほんの一部を受け取ることであり、価値を生まぬゼロサム・ゲーム(誰かが得をしたら、その分だけ誰かが損をすること)の中で、誰かの富を収奪することではない。