黎明期に入った治療用アプリ、1兆円市場はいつ?
スマートフォンを活用した新たな医療アプローチである治療用アプリが黎(れい)明期を迎えている。本稿では、治療用アプリを「高度なエビデンスに基づき、それ自身が薬事承認を有するもの、もしくは薬事承認品と併用されるもの」と定義する。
現在の医療は、医薬品(薬理学的な効能)、医療機器(物理的な効能)による治療を中心に成立している。そんな中、治療用アプリは患者の心に対して働きかけ、これまでの医療では介入が難しかった患者の意識改革(患者の行動・意識を変える効能)を実現する。
米国FDAから承認を得ている米WellDocの糖尿病治療アプリを例に挙げたい。医師に治療用アプリを処方された患者は自身のスマホでアプリを利用できる。患者は院外(例えば自宅)でも、24時間スマホ経由で専門的知見に基づいた生活習慣の是正や治療へのモチベーションを上げる動画コンテンツの提供を受けられるほか、自身で日々入力する血糖値データに対してリアルタイムに専門家からアドバイスを受けられる。これは長期間にわたる治療で課題となる患者の治療に取り組む心の問題(治療へのモチベーション)を高水準で維持する仕組みといえる。
また、薬を飲んだらタップで記録することで飲み忘れを防止し、服薬習慣を定着させる(=行動を変える)機能もある。次回通院時にはアプリ経由の入力情報を元に主治医が適切な治療・指導を実施する。これを繰り返し行うことでアプリを使わない治療と比較して治療効果が上昇する。
今後数年は、治療用アプリの多くが薬物治療と併用される形で治療効果を最大化するという目的で開発が進むと考えられる。製薬企業としては、治療用アプリを自社医薬品と併用することで付加価値(生活・服薬習慣の是正とそれによる治療効果向上)を提供することができるため、競争優位性を発揮することが可能になる。
<治療用アプリは、特に日常的に薬を服用する慢性疾患(生活習慣病など)、依存症(禁煙治療、薬物依存)や精神疾患(うつ病、不眠症)といった行動・意識の変化が治療に有効な疾患に親和性が高いといえる。こうした領域では国内外製薬会社・ベンチャー含め治療用アプリの開発競争が本格化してきている。
治療用アプリ市場はグローバルで年率20%超で成長し、2025年に1兆円規模になるとの試算もある。作用機序の斬新(ざんしん)さゆえ、将来的にはこれまで医薬品や医療機器による有効性が発揮できなかった領域に関しても新たな治療法を提供することが期待される。
(文=高橋政治<日興証券第二公開引受部IPOアナリスト課>)