今日、相鉄が悲願の都心乗り入れ。“選ばれる沿線”へ
相模鉄道が長年の悲願としていた都心乗り入れを実現する。30日に西谷(横浜市保土ケ谷区)―羽沢横浜国大(同神奈川区)間約2・7キロメートルの「相鉄・JR直通線」が開業。同線を経由して横浜市西部、神奈川県央と東京都心を直結する新たな鉄道ネットワークが始動する。乗り換えをなくし、到達時分を短縮する相互直通運転(相直)の実現で沿線の利便性は向上。地元からは地域活性化の起爆剤として期待が寄せられている。
「沿線地域の発展につなげたい。相直のメリットを十二分に感じてほしい」。相鉄・JR直通線の開業に先立ち、25日に開かれた“発車式”で千原広司相鉄社長はこう話した。相直は1日46往復。朝を除いて海老名―新宿間で運行し、相鉄が再開発に取り組んだ二俣川(横浜市旭区)―新宿間は従来より約10分早い最速44分で結ぶ。
新線は鉄道運輸機構が整備・保有する上下分離方式を採用。相鉄は受益相当額の使用料を支払わなければならず、相互直通による増収が直接、鉄道の利益増にはつながらない。むしろ、しばらくは相直用車両の新造やホームドアの設置で償却負担が重くのしかかり、利益を圧迫しそうだ。
相鉄グループは、相直により利便性が高まる沿線で、不動産や流通といった関連事業に波及効果をもくろむ。首都圏の鉄道各社は、将来の人口減少を見据えて“選ばれる沿線”を目指し、輸送や生活関連サービスの磨き上げを図っている。最後発で都心に乗り入れる相鉄も、沿線価値を訴求し、路線間競争で勝ち残りを狙う構えだ。
相鉄は西谷―羽沢横浜国大の利用者数を1日当たり約7万人と想定する。従来、横浜で他社線に乗り換えていた相鉄線利用者が移動経路を変えるのに加えて、新たな人の流動が発生すると期待。一方で、ある大手私鉄首脳は「新線開通による利用客の変化は、時間をかけてじわじわ出てくるものだ」とも話す。
4月には一足早くJR相直用車両「12000系」が相鉄線内で運行を始めた。当時、相鉄社長だった滝沢秀之相鉄ホールディングス(HD)社長は「親しみやすい鉄道会社のイメージを持ってもらう。プロパガンダの車両だ」と紹介。濃紺で特徴あるデザインの車両を通じ、都心における相鉄の認知度を高める狙いを明かした。
相鉄は1990年5月に日本民営鉄道協会で承認されて大手民鉄の仲間入りを果たすも、神奈川県内で路線が完結していたこともあり、沿線外での認知度は高くなかった。都心への乗り入れは、名実ともに大手私鉄として存在感を示す大きなきっかけになりそうだ。
相鉄は当初、JR東日本に上野東京ライン・東京方面への乗り入れも希望していたが、理解を得ることはできなかった。相直はJR東にも、既存の輸送需要の取り込みや広域移動需要の創出といった効果が見込める。一方、運行体系が複雑化し運用に困難が生じるのに加え、輸送障害時にダイヤ回復が難しくなるなどのデメリットも考慮する必要がある。
相鉄は都心乗り入れで名を売って、22年度下期に予定する、もう一つの相直計画「相鉄・東急直通線(新横浜線)」開業に備える。新横浜線は羽沢横浜国大―新横浜―日吉(同港北区)約10キロメートルの新線で新横浜を境に相鉄と東急電鉄が、それぞれ営業する。朝ラッシュ時には毎時最大14本程度の運行を見込んでおり、相鉄にとって本命ルート。都心を結ぶ動脈となりそうだ。
新横浜線開業で相鉄線の乗り入れ先は、東急線を経て目黒から都営三田線や東京メトロ南北線、渋谷および渋谷以遠も視野に入る。都心各駅から東海道新幹線の乗・下車駅変更も含め、首都圏の交通流動を大きく変える可能性を秘めている。
地域活性化の起爆剤に
JRとの相互乗り入れについて、相鉄沿線の地元企業からは「(都内在住の従業員が)通勤するのが楽になるだろう」「東京へ出て行く時に便利だ」といった声が聞かれる。イースタン技研(神奈川県大和市)の河西敦博社長は「地方からの出張者、顧客の来客が容易になる。特に22年度の東急電鉄乗り入れ開始に伴い、新幹線が使える新横浜駅に直結されることに大きく期待している」という。
横浜市の林文子市長は「市民の期待は大きかったと思う」と地域の思いを語る。「都心部へ複数の路線でアクセス可能になり、非常時の代替輸送能力も向上する」と利便性以外の効果についても言及。「人の往来が活発になり、駅周辺の開発や沿線の街づくりなど地域の活性化につながる」と待望する。
同市が27年の招致を進める国際園芸博覧会は、旭区と瀬谷区にまたがる旧上瀬谷通信施設の跡地を会場と想定している。相鉄本線の瀬谷駅が最寄り駅になることから、林市長は「市の内外から多くのお客さまを迎えるための重要な手段として、この路線には大きな役割を担ってもらう」と期待を込める。