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東京一極集中するベンチャー投資、地方に打開策はあるか

「地方からユニコーンが生まれるのは時間の問題」

ベンチャー投資の東京一極集中が進んでいる。2018年度の投資額は約75%が東京都のベンチャーに投資された。19年も11月時点で8割が東京への投資だ。ベンチャーキャピタル(VC)各社は「ようやく日本もベンチャーを育むエコシステム(協業の生態系)ができた」と声をそろえる。これは「東京ではベンチャー投資が産業の体をなしてきた」と言い換えられる。地方にエコシステムは広がるだろうか。課題を探った。(取材・小寺貴之)

人・金集め

「VCは信頼をつなぐビジネス。ベンチャーもVCもコミュニティーに入らないと投資は集まらない」とBDashVentures(東京都港区)の渡辺洋行社長は説明する。投資先の経営会議に出たり、投資先を大企業や他のVCに紹介したりと顔見せの機会が多い。地元重視になりやすく、「シリコンバレーでさえ、車で1時間以内でないと投資しないVCもいる」という。人が人と金を集めてきた。渡辺社長は「東京のVCが出張(でば)るよりも、地方のエコシステムが大きくなるのが理想」と指摘する。

地域課題に長短

地方は人を集めにくい。経営層や技術者など、ベンチャーは成長期に人繰りに困り、拠点を都心に移す企業も少なくない。一方で地方はさまざまな課題が露見しており、ビジネスのネタには困らない。地域交通のスマート化や害獣の出没予測など、より本質的な社会課題を解けば新興国などにも展開できる。

そこでベンチャーエンタープライズセンター(VEC、東京都千代田区)は高校生の起業教育の充実を訴える。地域課題に日常的に触れている若い頃から、課題をビジネスで解くマインドを養う。市川隆治理事長は「自分も起業を選べると実感することが大切」と強調する。自分の進路の先に起業があると、地域課題が不満のタネから起業のネタに変わる。

この地域課題はくせ者だ。課題の多くが自治体の補助金で支えられ、公費は事業を広げる原資にならない。KDDIの松野茂樹地方創生担当理事は「経営が苦しい時期に補助金で食いつなごうとしてしまう。依存するとベンチャーは大きく育てない」と指摘する。

マインドの変化

VCのマインドも変化している。投資効率を求めて東京に集中すると競争が激しくなる。リアルテックファンドの永田暁彦代表・ユーグレナ副社長は「テクノロジーは全国にある。いま手つかずの地方はチャンスしかない」という。論文を読み込み、ベンチャーが技術一辺倒なら経営ができる人材を地方に送り込む。結果、東京に立地していない投資先が57%を占めようになった。「東京に実験系の研究所を構える大企業は珍しい。ユーグレナも地方に移そうと検討している」と明かす。

MAKOTO(仙台市若林区)は東北大学と連携し起業支援を続けてきた。2年間で東北大発ベンチャーは28社増え104社になった。同社の竹井智宏社長は「日本人の半分は三大都市圏以外の地域に住んでいる。地方からユニコーン(時価総額1000億円超のベンチャー)が生まれるのは時間の問題」と断言する。

【記者の目】

いろんな方面からの要請を受けてVCが地方創生に悩んでいるのだと思います。ただ地方でVCが活動しているのは地方都市とその圏内で、地方創生で活性化を求められている地域はもう一回り地方なのではないかと思います。人がおらず疲弊している地域だと、スタートアップ云々の前に中小企業のエコシステムも維持が難しいです。スタートアップ振興と地方創生は、なかなか交わらない可能性があります。今後サンドボックス制度や補助金など、さまざまな政策資源が投入されて地方でのスタートアップ振興がテコ入れされるのですが、スタートアップの補助金依存はよくないという指摘のように、VCも公的支援に依存しないように気をつけたほうがいいかもしれません。アントレプレナー精神が求められていると思います。

日刊工業新聞2019年11月26日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
ベンチャーエコシステムを地方に拡大するためには資金の量を増やすことが必要で、そのために日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)は機関投資家からの資金獲得を目指します。量が増えると地方へトリクルダウンが起きるのかもしれません。一方、リアルテックファンドの永田代表はアントレプレナー精神をもったキャピタリストというよりは現役のアントレプレナーです。そんな人に率いられて、地域を問わずにテクノロジーを開拓したら地方のスタートアップにたくさん投資できたそうです。どっちも大切ですが、後者の方がアントレプレナー同士共感しやすいのだろうと思います。

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