紙袋屋の“おやじ”通信で農林業・インフラ・防災を結びつける

フォレストシー 長距離無線システム展開

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防災無線鉄塔への設営例(同社提供)

「自分は自然保護のレンジャーになりたかった。だが中小企業のおやじに何ができるだろうか」―。共同紙工(東京都江東区)の時田義明社長は新事業を立ち上げるまでの自問自答を振り返る。小さな紙袋屋が通信システム事業を始めた。中山間地域などに通信料無料の長距離無線システムを販売する。電力インフラの管理や災害対応と、地域の農林業の情報通信技術(ICT)化を両立させる。(取材・小寺貴之)

運用モデル提案

フォレストシー(東京都江東区)は共同紙工の新事業部門がスピンアウトした通信ベンチャーだ。「里山通信」として出力250ミリワットの長距離無線システムを販売する。親機と中継機の間は見通し環境で200キロメートル以上電波が飛ぶ。中山間地域の獣害対策では獣わなに無線端末を取り付ける。イノシシがわなに掛かれば担当者に作動通知が届く。従来は定期巡回して獣が掛かっているか確認していた。登山客の遭難防止や林業作業員の安全管理、災害対策には土壌水分量センサーや地滑りセンサーの通信インフラとして提案する。

特徴は運用モデルの提案にある。電力会社や鉄道会社がインフラ管理用にシステムを導入し、空いた通信チャネルを地域に有償提供するモデルを描く。例えば送電鉄塔に中継機を設置し、ネットワークを作ると一帯をカバーできる。電力会社は保守作業員の遭難防止や地滑り監視に利用し、残りの通信チャネルを地域の林道監視や獣害対策用などに貸し出す。フォレストシーは機器売りに徹する。

時田社長は「防災や農林業は単体で広域通信インフラを整えても採算がとれない。電力会社などとシェアすれば見込みが出てくる」と説明する。インフラ会社の多くは立地地域との関係が深く、電力自由化を機に鉄塔などの空間貸しを始める電力会社もある。企業のCSR活動などでインフラ会社が自治体と実証実験を進め、ビジネスモデルが固まれば事業として独立させる「共創」が広がりつつある。

連携が不可欠

課題はユーザーとなる農林業がICT活用に明るくない点だ。そこでフォレストシーは若手猟師の育成組織と連携する。ジビエの普及イベントに本社スペースを提供し関係を築いてきた。無線通信そのものは防災や農林業など、用途は限定されない。時田社長は「携帯の電波も届かない中山間地域では、皆でシェアしながら賢く使っていく連携が必要だ」と強調する。

時田社長も共同紙工の経営の傍ら山に通い、無線の設営と電波計測を重ねてきた。日中は山に入り、夜は企画や打ち合わせに費やした。「地域には農林業支援だけでなく、自然災害対策や観光客の遭難対策など、課題は多い。通信が本当に必要とされているとわかった」と振り返る。

獣わなの監視システムは全国50カ所で稼働中だ。この実績が認められ、地域と一緒に電力などのインフラ会社との連携モデルを描けるようになった。5年後には売上高50億―100億円程度の事業に育てる構えだ。紙袋屋の“おやじ”は通信で農林業とインフラ、防災を結びつけようとしている。

日刊工業新聞2019年10月21日

COMMENT

小寺貴之
編集局科学技術部
記者

 電話屋の電力販売や電気屋の通信販売など、鉄塔の有効活用・収益化が模索されています。その流れに乗って、地域とインフラ会社の通信電波のシェアを提案します。電波は無色透明で、防災にも、野生動物対策にも、遭難防止にも使えます。中山間地域では人口減で野生動物の生活圏が里山まで広がりつつあります。インフラ会社にできることは多いです。まずはCSR予算で地域との連携モデルを構築し、独立採算がとれるモデルができたら全国に展開するのがいいと思います。ですがインフラ会社の本社で発案されることは少なく、地域からアイデアが出て、インフラ会社の支社と結託して、本社を説得する流れが現実路線だと思います。この仕掛け人が地方には多くないため、知恵の絞りどこであり、ベンチャーのチャンスといえると思います。

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