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「リクナビ問題」の波紋、人事部門に押し寄せるデジタル化の功罪

最適化へ問われる利活用
 就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが企業に提供した就活学生の内定辞退率予測データをめぐる火種が今なおくすぶっている。厚生労働省はリクルートキャリアに対して、すでに職業安定法に基づく行政指導を実施。さらに今回の一件では個人情報保護法への抵触を含め、法的な論点が明確化する一方で、データを購入した側の姿勢も問われている。人事の最適化が企業の競争力を左右する時代にあって、人事部門に押し寄せるデジタル化の功罪が浮かび上がっている。

 リクルートキャリアが提供した内定辞退率予測データで、対象となった学生は合計7万4878人。このうちプライバシーポリシーの不備により、同意を得ていなかった学生は7983人だった。個人情報保護法に照らせば、本人の同意の有無に焦点が当たるが、厚労省による行政指導からも明らかなように、問題の根は深い。

 学生の立場でいえば、自分が想定もしてない状況で分析内定辞退率を判断されていたらあまりに酷だ。今は売り手市場で学生が有利ともいえるが、求人の需給状況が変われば学生側が不利となるのは言うまでもない。

 内定辞退率予測データの提供が廃止となったことで騒ぎはひとまずは沈静化したが、個人データの利活用とプライバシー保護の線引きはホットなテーマであり、今回の一件は人事部門のみならず、大きな波紋を投げかけた格好だ。

 一方で、人事部門に押し寄せるデジタル化が及ぼす功罪も見逃せない。今回は負の要素がクローズアップされたが、人事業務のデジタル化は急展開している。

 欧米の先進企業は採用から退職までの全プロセス(手順)をデジタル化し、入社後の教育や配属、評価、昇格、異動などを網羅した人財管理基盤「ヒューマン・キャピタル・マネージメント(HCM)」を築いている。HCM分野で実績を持つ外資系IT企業の幹部は「日本は失われた10―20年と言われるが、人事業務のデジタル化も欧米に比べて遅れている。日本の人事部門は変わらない」と指摘する。

 KPMGコンサルティングが手がけた案件では、自動車メーカ―のエンジン開発部門の配属を決める際に、人工知能(AI)を活用。技術者の履歴や業務実績のみならず、執筆した論文や技術報告書などの膨大なデータをAIに学習させて、配属先の組織が求める人材とのマッチングを最適化したという。人手ではカバーできない膨大な情報から客観的な判断を下しているのが特徴だ。

 こうした取り組みはさらに広がっていくのは必須であり、人事業務のデジタル化は待ったなしの状況。ただ、効率化のみを追求したり、AIの判断を過信したりすると、思わぬ落とし穴に陥る。人事部門に押し寄せるデジタル化の波は高い。
(取材・斉藤実)

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