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森ビル社員が未来の都市づくりを考える場

森ビル社員が未来の都市づくりを考える場

「MIRAI会議」は緩やかにつながる場として人気

 森ビルは、創業者の森泰吉郎氏が1956年に建てた最初の賃貸ビル「西新橋2森ビル」を社内のコミュニケーションを促す空間として活用している。2018年に大規模な改修を終え、勉強会や懇親会に利用できるスペースを設置。社員が持ち寄った本を貸し出すコーナーやサテライトオフィスも備えた。営業本部オフィス事業部の土岐昌央氏は「未来の都市づくりを考える場」と位置付ける。(堀田創平)

 森ビルは、理想の働き方を実現する手段として、生産性の向上とともに“考え、体験できる場所”の整備に重きを置く。けん引するのは、総務や人事といった部門の枠を超え17年に発足したプロジェクトチームだ。まずは業務内容の可視化や見直しに加え、ハードやソフトの導入に着手。さらに社員一人ひとりの声も拾い上げ、社員全員であるべき働き方を思い描いた。

 この議論の中で目を付けたのが、ちょうど耐震補強の工事中だった西新橋2森ビルだ。戦略エリアと捉える東京都港区に立地し、同社が手がけたアークヒルズや虎ノ門ヒルズ、本社を置く六本木ヒルズにも近い。土岐氏は「実は別軸で『何か社員が使える空間にしたいね』と話していた。このビルならばこんな使い方ができそうだ、と一気に話がまとまった」と振り返る。

 森ビルにとって、西新橋2森ビルは象徴的な存在だ。ここを皮切りに、周辺で自社の所有地と隣接地を合わせた共同建築による再開発を始動。代名詞でもある「ナンバービル」を展開し、アークヒルズや六本木ヒルズ、8月に着工した虎ノ門・麻布台プロジェクトのような街づくりを手がけるまでに進化した。この間、追求し続けたのが「都市を創り、育む」という理念だ。

 「少人数で深い話をする“部室”」(土岐氏)をイメージして仕上げた西新橋2森ビルにも、当然この理念が息づく。それを形にした好例が、10人前後で毎月開く緩やかな勉強会「MIRAI会議」だ。構成や運営は入社3―5年の有志が担い、大規模開発やイベント、実証実験などを手がけた社員を囲む。飾らないリアルな話を聞くことができると人気の自信作だ。

 MIRAI会議はすでに10回以上の開催を誇る。参加した若手社員にも「キャリアプランを考えるきっかけになった」「本社では面識がなかった先輩や同僚と交流できた。この先の業務で間違いなくプラスになる」と好評だ。リピーターも目立つ。土岐氏はさらにコンテンツを磨き「これまで多かった40代社員だけでなく、役員にも講師をお願いしていきたい」と意気込む。

 西新橋2森ビルは併せて、移動の合間に立ち寄って業務をこなすサテライトオフィスの機能も持つ。滞在時間は1人当たり平均30―40分と短い。それでも「たまたま居合わせた同僚とのやりとりを発端に新しいアイデアが浮かんだ」と、実際に柔軟な発想や気付きを後押しする効果も出ているようだ。靴を脱いで上がるスペースを目当てに訪れる社員も増えているという。
日刊工業新聞2019年10月9日

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