METI
高機能マスク、ヒットのわけは「発想力」
くればぁはマスクやメッシュ、ネットなど繊維や樹脂、金属のオリジナル製品を手がける。それまでの縫製業で培ったノウハウを生かし、網の目のきめが細かく、必要に応じて多層構造にして厚みを持たせたり、形状を改良したりすることでホコリや微粒子など微小物質を捕らえて侵入を防ぐ構造が特徴だ。
元々は中河原四郎会長が1966年に創業し、布団カバーから高級アパレル婦人服、さらにクリーンルーム用作業服と縫製の受託加工品を変えながら生き残りを図ってきた。技術を高めながら必死に食らいつく中、交通事故による長期入院で取引停止になり倒産寸前に追い込まれたものの、アイデア製品で受託加工から自社製品メーカーに転換し、危機を乗り越え今年で創業54周年を迎えた。
苦境を救った製品は、吸水性がよいレーヨン繊維のテーブルクロスの素材を用いたタオル。大手繊維メーカーに提案したところ「発想力が面白い」と素材を提供してくれた。それを機に新たな取引先の開拓につながった。
マスクで独自製品開発に取り組んだのは花粉症対策がきっかけだった。中河原会長の娘で現社長の衣理さんなど家族が花粉症に苦しんでいた姿をヒントに開発に取り組んだ。
不織布できめを細かくしたうえ、静電防止機能で花粉やホコリの侵入を物理的に防ぐ仕組みとした。また汗を吸いやすい一方で乾きやすく、臭いを取る消臭機能を加えた。形状は使い捨ての既存のマスクでできる鼻と頬の間の隙間を埋めるように改良し、形状記憶機能を持たせて2003年に発売した。「特許を取得し、メディアにも取り上げられた」(中河原会長)自信作だったが、1980円という価格がネックとなり、当初の売り上げは芳しいものではなかったという。
風向きが変わったのは、中国からの粒子状物質(PM)2.5の飛散問題である。直径2.5マイクロメートルの粒子状物質を防ぐため、これまでの花粉症対策マスクよりさらに10分の1近くメッシュの目を細かくし、多層構造とした。価格は4980円と花粉症対策マスクの約2.5倍にもかかわらず、インフルエンザ対策やエボラ出血熱対策でもマスクが注目を浴びていたこともあり、ヒットにつながった。
ただ海外では、大気汚染などの問題がありながらも、マスクを着用する習慣が浸透していない地域も少なくない。そこで「マフラーと一緒なら違和感がないのでは」との社内からの発案によりマフラーと一体化したマスクを2017年にデザイナーと共同で開発した。こうした試みも端緒に、機能性のみならずデザイン性やライフスタイルに合わせたマスク開発を追求している。
新たな取り組みは、この春、経営のバトンが石橋衣理社長に託されて以降、さらに加速。開発や企画の専任者を置かずに開発テーマごとにチームを編成する方式を採用。部署を問わずすべての社員が日常生活の中に開発のヒントがないかアンテナを高め、アイデアを具現化する狙いだ。原価計算などを通じ、企業収益に対する意識を持ってもらうことも「社員の経験、成長につながる」(石橋社長)と期待する。
実際、同社はこれまでもマスク以外の製品では、消費者ニーズや現場目線を参考に、豪雨災害などから守る防水シートや獣害予防用のネット、自動車のスマートキーのリレーアタックによる盗難を防ぐための通信遮断機能付きキー袋などを製品化してきた。
今後の成長のカギを握るネット通販では、サイトの改良を通じてスマートフォン決済をしやすくするとともに、出荷作業の人員を増やして受注増に備える。メッシュやマスク、防水シートなど同社製品全般を扱う電子商取引(EC)事業は現在、月商600万円程度だが、1年後には3倍以上を見込んでいる。
2020年には子ども向けマスクの新製品を市場投入を控えることからブログでの情報発信や製品情報の発信にも力を注ぐなど、効率的な広告宣伝手法を分析。自社サイトの多言語化も進め、国内はもとより海外のネットユーザーの取り込みにつなげる計画だ。
ユニークな用途開拓として注目されるのは、スポーツ選手向けにトレーニングの要素を取り入れたマスク開発である。同社はすでに呼吸時に負荷をかけて内肋間筋や外腹斜筋など横隔膜筋以外の普段あまり使わない呼吸筋を使うことで1日約200キロー400キロカロリーの消費を促すマスクを商品化しているが、こうしたノウハウを活用し、スポーツ選手の呼吸機能などを鍛える商品を2019年内にも発売予定だ。
市場や用途多様化に向けた一連の取り組みの裏には、季節要因や需要変動といった外部環境に左右されにくい収益体質を目指す経営戦略がある。国内市場に偏重していては、花粉症やインフルエンザの発症時期に需要が集中してしまう。自ら市場を創り出すことでこれを平準化するとともに、潜在的なニーズを掘り起こす狙いだ。
これまで築き上げてきた製品や品質に対する顧客からの信頼を守りつつ、時代や市場の変化への感度を研ぎ澄まし、新たな領域に果敢に挑む-。そのバランスと柔軟性が、さらなる成長の原動力といえそうだ。
経営危機から一転
元々は中河原四郎会長が1966年に創業し、布団カバーから高級アパレル婦人服、さらにクリーンルーム用作業服と縫製の受託加工品を変えながら生き残りを図ってきた。技術を高めながら必死に食らいつく中、交通事故による長期入院で取引停止になり倒産寸前に追い込まれたものの、アイデア製品で受託加工から自社製品メーカーに転換し、危機を乗り越え今年で創業54周年を迎えた。
苦境を救った製品は、吸水性がよいレーヨン繊維のテーブルクロスの素材を用いたタオル。大手繊維メーカーに提案したところ「発想力が面白い」と素材を提供してくれた。それを機に新たな取引先の開拓につながった。
マスクで独自製品開発に取り組んだのは花粉症対策がきっかけだった。中河原会長の娘で現社長の衣理さんなど家族が花粉症に苦しんでいた姿をヒントに開発に取り組んだ。
不織布できめを細かくしたうえ、静電防止機能で花粉やホコリの侵入を物理的に防ぐ仕組みとした。また汗を吸いやすい一方で乾きやすく、臭いを取る消臭機能を加えた。形状は使い捨ての既存のマスクでできる鼻と頬の間の隙間を埋めるように改良し、形状記憶機能を持たせて2003年に発売した。「特許を取得し、メディアにも取り上げられた」(中河原会長)自信作だったが、1980円という価格がネックとなり、当初の売り上げは芳しいものではなかったという。
細かいメッシュ、多層構造に
風向きが変わったのは、中国からの粒子状物質(PM)2.5の飛散問題である。直径2.5マイクロメートルの粒子状物質を防ぐため、これまでの花粉症対策マスクよりさらに10分の1近くメッシュの目を細かくし、多層構造とした。価格は4980円と花粉症対策マスクの約2.5倍にもかかわらず、インフルエンザ対策やエボラ出血熱対策でもマスクが注目を浴びていたこともあり、ヒットにつながった。
ただ海外では、大気汚染などの問題がありながらも、マスクを着用する習慣が浸透していない地域も少なくない。そこで「マフラーと一緒なら違和感がないのでは」との社内からの発案によりマフラーと一体化したマスクを2017年にデザイナーと共同で開発した。こうした試みも端緒に、機能性のみならずデザイン性やライフスタイルに合わせたマスク開発を追求している。
新たな取り組みは、この春、経営のバトンが石橋衣理社長に託されて以降、さらに加速。開発や企画の専任者を置かずに開発テーマごとにチームを編成する方式を採用。部署を問わずすべての社員が日常生活の中に開発のヒントがないかアンテナを高め、アイデアを具現化する狙いだ。原価計算などを通じ、企業収益に対する意識を持ってもらうことも「社員の経験、成長につながる」(石橋社長)と期待する。
実際、同社はこれまでもマスク以外の製品では、消費者ニーズや現場目線を参考に、豪雨災害などから守る防水シートや獣害予防用のネット、自動車のスマートキーのリレーアタックによる盗難を防ぐための通信遮断機能付きキー袋などを製品化してきた。
スポーツ分野にも進出
今後の成長のカギを握るネット通販では、サイトの改良を通じてスマートフォン決済をしやすくするとともに、出荷作業の人員を増やして受注増に備える。メッシュやマスク、防水シートなど同社製品全般を扱う電子商取引(EC)事業は現在、月商600万円程度だが、1年後には3倍以上を見込んでいる。
2020年には子ども向けマスクの新製品を市場投入を控えることからブログでの情報発信や製品情報の発信にも力を注ぐなど、効率的な広告宣伝手法を分析。自社サイトの多言語化も進め、国内はもとより海外のネットユーザーの取り込みにつなげる計画だ。
ユニークな用途開拓として注目されるのは、スポーツ選手向けにトレーニングの要素を取り入れたマスク開発である。同社はすでに呼吸時に負荷をかけて内肋間筋や外腹斜筋など横隔膜筋以外の普段あまり使わない呼吸筋を使うことで1日約200キロー400キロカロリーの消費を促すマスクを商品化しているが、こうしたノウハウを活用し、スポーツ選手の呼吸機能などを鍛える商品を2019年内にも発売予定だ。
市場や用途多様化に向けた一連の取り組みの裏には、季節要因や需要変動といった外部環境に左右されにくい収益体質を目指す経営戦略がある。国内市場に偏重していては、花粉症やインフルエンザの発症時期に需要が集中してしまう。自ら市場を創り出すことでこれを平準化するとともに、潜在的なニーズを掘り起こす狙いだ。
これまで築き上げてきた製品や品質に対する顧客からの信頼を守りつつ、時代や市場の変化への感度を研ぎ澄まし、新たな領域に果敢に挑む-。そのバランスと柔軟性が、さらなる成長の原動力といえそうだ。