ニュースイッチ

多様な知恵・体験を共有、イノベーションは“出島”から生まれる

IT・情報サービス各社が戦略重視
多様な知恵・体験を共有、イノベーションは“出島”から生まれる

ベンチャー、スタートアップ企業の人材が活発に議論する(CTCのDEJIMA)

 イノベーションは“出島”から生まれる―。IT・情報サービス各社はデジタル変革(DX)に向け、あの手この手でイノベーション創出を加速する。注目は出島戦略。本社とは意思決定などを切り離し、自由に動ける組織や場を設け、従来とは異なる目線で化学変化を起こす狙いだ。夏の猛暑に負けず、企業や自治体はもとより、ベンチャー企業や投資家、学生など、さまざまなプレーヤーが出島を訪れている。

ベンチャー支援 アイデアを具現化


 伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は、オープンイノベーション拠点「DEJIMA(デジマ)」の運営に乗り出している。利用登録者数は2017年の設立以降、約2年で約800人にまで増加した。各種イベントの開催を除き、新たなアイデアのマッチングや相談を求めて集まった大企業やベンチャー企業の関係者は累計5000人を超えた。

 デジマは、新規事業の開発担当者や人工知能(AI)、IoT(モノのインターネット)などデジタル変革(DX)を活用した事業の実現に取り組む人材を結びつける場。CTCのエンジニアなどがITの力を活用し、ビジネスアイデアの具現化を支援する。

 デジマがある東京・五反田地域は、渋谷や六本木などに続くスタートアップ企業の集積地域となっている。18年7月に立ち上がったベンチャー企業数社による地域活性化団体「五反田バレー」の創設式もデジマで実施するなど、地域のイノベーション拠点としての認知も向上している。

 独SAPとの連携によって、出島戦略で先駆けるのはSAPジャパン(東京都千代田区)。デザイン思考を活用し、スタートアップを支援する伴走型の「インスパイアード・ラボ」に続き、新たな出島として、共創イノベーション施設「レオナルド・エクスペリエンス・センター・東京」と、SAP直轄のグローバルな研究開発組織の一翼を担う「ラボ・ジャパン」を東京・大手町ビル内に立ち上げ、8月に本格始動した。

 日本型DXのフレームワーク(枠組み)を確立し、出島戦略を起点に日本発のイノベーションを世界に発信する狙いもある。SAPジャパンの福田譲社長は「課題大国のニッポンを課題解決先進国にしたい」と抱負を語る。

アクセンチュアのイノベーション・ハブ東京

 スタートアップ支援の第1弾では4社を選定。うち1社で、オンライン面接ツールを提供するZENKIGEN(東京都千代田区)の野沢比日樹社長は「今回の選定により、日本発のグローバル企業への切符を手にした」と期待を込める。

 大手町ビルには三菱地所と電通国際情報サービス(ISID)が共同運営するフィンテック(金融とITの融合)支援拠点「フィノラボ」もあり、東京のオフィス街のど真ん中に一大イノベーション拠点が形作られている。

社内外の知を結集 多様な知恵・体験共有


 イノベーション創出に向けて、多様な知恵や体験を体感・共有するハブ機能を備えた拠点開設も相次いでいる。アクセンチュア(東京都港区)が都内に設立した「イノベーション・ハブ東京」は、2フロアで敷地面積がサッカー場の1面分に相当する。

 フロア全体は斬新なデザインにより、近未来的な空間を演出。中央には祭りで人が集まる風景をイメージし、やぐらを模したオブジェ(作品)を設置している。

 アクセンチュアが運用するイノベーション拠点は、全世界で100拠点以上。イノベーション・ハブ東京には企業や自治体などに加え、学生なども訪れ、来訪者は設立1年半で2000組を超えた。

 7月には福島県会津若松市にも地域発のイノベーション拠点を開設し、地方も含め一体で取り組みを加速する。

 NTTデータは、新たなサービスの創出や既存ビジネスの改善を行う「デザインビジネス」を展開するためにイノベーション拠点を開設する。東京都港区の「アクエア」をはじめ、スペインやイタリア、ドイツなど世界15カ所に同様の拠点があり「データデザインネットワーク」として、ノウハウや成功事例を共有化する。技術革新統括本部FXD推進室の平岡正寿室長は「デザインビジネスは欧州で先行する。メンバーが日本に来てプロジェクトに入ることもある」と特徴を語る。

 同イノベーション拠点では新たなアイデアを練る「場」のほか、常にプロジェクトを相談できる「デザイナー」、次のサービスを実現するため「技術」の三つを提供する。東京の拠点であるアクエアは18年6月に立ち上げた後、相談や協力などを含む利用者は着実に増加し、2ケタ中盤まできた。

 平岡室長は「グローバルでデザインビジネスのベースを作っている。今後、ユーザーやサービスを軸に考えるデザインビジネスは大きく広がる」と期待する。

 大手電機などもイノベーション創出への取り組みで新展開に乗り出している。富士通は東京・蒲田のシステムエンジニア(SE)拠点でいち早くオープンイノベーション拠点を開設。NECは体感と対話を通して新たなイノベーションを生み出す共創空間「フューチャー・クリエイション・ハブ」を2月に開設した。体感・共創型の同施設は東京・田町の本社1階のオープンフロアにあり、敷地面積は約1800平方メートル。共創を進めるDX人材として、約1600人からなる専門家集団「デジタルオールスターズ」を組織。開設以降、5カ月間で約1200社、延べ約4000人が来場し「想定以上に新事業創造に向けた共創案件が生まれている」(NEC)という。

 日立システムズは働き方改革や健康経営の分野で、社員のイノベーション創出を支援するための拠点を設置している。東京都品川区の事業所内に開設した「コネクト・スマイル・ラボ」は、デジタルサイネージ(電子看板)やテレビ会議設備などの各種コミュニケーションツールだけでなく、心の健康状態を判定できるクラウドサービス「音声こころ分析サービス」など、社内やパートナー企業の働き方改革や健康経営に関する製品やサービスを具体化するモデル職場空間だ。

 社員が同ラボを活用することで従業員の行動変容データが蓄積する。集まったデータは分析し、既存サービスの改善や新規サービスの開発に生かす。
NECのフューチャー・クリエイション・ハブにはメルケル独首相も訪れた
日刊工業新聞2019年8月14日

編集部のおすすめ