アフリカでスタートアップが大ブーム!出遅れの日本に挽回のチャンスは?
ジェトロ理事の平野克己氏に聞く
アフリカでスタートアップブームが巻き起こっている。携帯電話が普及したことで、モバイル送金サービスをはじめ、同サービスを利用した小型太陽光発電装置(ランタン)の割賦販売などのビジネスが相次ぎ誕生。日本の大手商社も出資する事例も出始めている。昨今、アフリカで何が起きているのか。アフリカ経済に詳しい日本貿易振興機構(ジェトロ)理事の平野克己氏に聞いた。(取材・大城麻木乃)
Q:アフリカのスタートアップブームをどう見ていますか。
「ブームはアフリカに限らず、全世界的に起きている。世界中でスタートアップを支援するベンチャーキャピタルがものすごく増えており、それを集積したエコシステムが形成されている。アフリカの中ではナイジェリアの最大都市ラゴスとケニアの首都ナイロビ、南アの港湾都市ケープタウンが三大拠点だ」
「世界と比べると、アフリカのエコシステムはまだ微弱と言わざるを得ない。ただ、アフリカのスタートアップには特徴がある。一つは貧困層を対象にしていること。もう一つはフィンテックやドローンといった最新のテクノロジーを活用していることだ。この特徴が、世界から注目される理由だろう」
Q:日本企業もスタートアップに出資する事例も出始めていますが、欧米などに比べ初動が遅かったとの指摘があります。
「日本は、自前のエコシステムをつくるのが遅れたことが関係しているだろう。これまで日本はシリコンバレー依存が強かった。ついこの間まで、日本のスタートアップは少し大きくなるとシリコンバレーに行き、そこに拠点をつくった。世界中の国はそうではなく、自前の拠点をつくることを一生懸命やった。はっと気づいたら、世界のあちこちにエコシステムができていた。中国・深圳にとんでもないもの(巨大なエコシステム)ができていた。日本はまず自前のエコシステムをつくっていかないといけないだろう」
Q:アフリカビジネス全体でも日本は出遅れていると言われます。なぜでしょうか。
「もともと日本は貧困層ビジネスには強かった。松下幸之助の水道哲学(水道の水のように安くて良質なものを普及させる考え)が良い例だ。しかし、1980年代のバブル期にそれが失われた。バブル期に日本の商品開発は、高付加価値で高機能に舵をきった。それが一番もうかった。世界で一番もうかる市場が日本市場だったので、日本企業は内向き志向になった。アフリカからも撤退した。そこから日本の経済は伸びていない。日本の成長は止まった。外を見ない経済は必ず成長が止まる」
Q:ただ、最近はアフリカへの関心自体は年々、高まっているように見受けられます。
「確かに、2008年頃から企業のアフリカへの関心は高まっている。個人的な話をすると、私が執筆したアフリカ関連本の読者がそれまでの数百人から1万人、2万人と2ケタ増えた。アフリカ関係の書籍を出版社がちゃんと出してくれるようになった。ジェトロの事業で言えば、どれだけ小さいアフリカの国の投資セミナーでも、大体100人以上の申し込みはある。以前は集客に苦労した」
「しかし、企業の関心が具体的な数字に結びついていない。2016年の第6回アフリカ開発会議(TICAD6)で今後3年間で官民合わせて300億ドル(約3兆円)の対アフリカ投資を表明したが、外務省によれば18年9月時点で約160億ドルにとどまる」
Q:要因は。
「大企業によるアフリカ投資が一巡したからだ。日本はグローバル企業の数が少なく、すぐ一巡してしまう。また日本企業の世界市場に向けられた視線が東南アジア、中国、米国の3カ国・地域に極端に偏っていることも影響している」
「アフリカの人口増加で、21世紀の終わりには世界人口の40%はアフリカ人と予測されている。例えば宇宙人が来て地球人のサンプルを取ったら、多くの確率でアフリカ人に当たるイメージだ。人類はどんどんアフリカ化している。そうした中、アフリカまでビジネスの網を張らないと、中長期の企業の成長は期待できない」
Q:8月末に日本主導の「第7回アフリカ開発会議(TICAD7)」が横浜で開かれます。会議に期待していることは。
「80ー90年代に、アフリカの国内総生産(GDP)の約40%は公的部門が占めた。社会主義経済みたいなもので、市場が機能する空間が小さかった。しかし、2003年頃から高度成長が10年続き、この中で民間部門が厚くなった。外資が入り、アフリカの中の企業もどんどん出てきた。いくつか日本にはないぐらいの非常に大きな多国籍企業が誕生した。アフリカ大陸は54カ国と、国の数が多い。一つひとつの国にとどまっていたら、規模の経済が働かない。急成長した企業は内資であれ外資であれ、必ず多国籍展開で国境を越えている。政府は定義上、国境を越えられない。急成長のハンドルを握っていたのは企業だった。企業が経済の動向を占う最大のアクターになった。これが20世紀末のアフリカと今のアフリカの大きな違いだ」
「つまり日本企業にとっては、アフリカにパートナーがいる。TICAD7に合わせ、数百のアフリカ企業が横浜にやってくる。それだけカウンターパートがいる地域になった。企業はアフリカの経済が好不況にあっても、常に競争しているので、勝ち組は常に勝っている。そういう本来の市場経済がアフリカで動いている。ぜひ今回の会議を契機にアフリカまで目を向け、より多くのアフリカ企業に触れ、何らかのビジネスチャンスをつかんでほしい」
Q:アフリカのスタートアップブームをどう見ていますか。
「ブームはアフリカに限らず、全世界的に起きている。世界中でスタートアップを支援するベンチャーキャピタルがものすごく増えており、それを集積したエコシステムが形成されている。アフリカの中ではナイジェリアの最大都市ラゴスとケニアの首都ナイロビ、南アの港湾都市ケープタウンが三大拠点だ」
「世界と比べると、アフリカのエコシステムはまだ微弱と言わざるを得ない。ただ、アフリカのスタートアップには特徴がある。一つは貧困層を対象にしていること。もう一つはフィンテックやドローンといった最新のテクノロジーを活用していることだ。この特徴が、世界から注目される理由だろう」
Q:日本企業もスタートアップに出資する事例も出始めていますが、欧米などに比べ初動が遅かったとの指摘があります。
「日本は、自前のエコシステムをつくるのが遅れたことが関係しているだろう。これまで日本はシリコンバレー依存が強かった。ついこの間まで、日本のスタートアップは少し大きくなるとシリコンバレーに行き、そこに拠点をつくった。世界中の国はそうではなく、自前の拠点をつくることを一生懸命やった。はっと気づいたら、世界のあちこちにエコシステムができていた。中国・深圳にとんでもないもの(巨大なエコシステム)ができていた。日本はまず自前のエコシステムをつくっていかないといけないだろう」
Q:アフリカビジネス全体でも日本は出遅れていると言われます。なぜでしょうか。
「もともと日本は貧困層ビジネスには強かった。松下幸之助の水道哲学(水道の水のように安くて良質なものを普及させる考え)が良い例だ。しかし、1980年代のバブル期にそれが失われた。バブル期に日本の商品開発は、高付加価値で高機能に舵をきった。それが一番もうかった。世界で一番もうかる市場が日本市場だったので、日本企業は内向き志向になった。アフリカからも撤退した。そこから日本の経済は伸びていない。日本の成長は止まった。外を見ない経済は必ず成長が止まる」
Q:ただ、最近はアフリカへの関心自体は年々、高まっているように見受けられます。
「確かに、2008年頃から企業のアフリカへの関心は高まっている。個人的な話をすると、私が執筆したアフリカ関連本の読者がそれまでの数百人から1万人、2万人と2ケタ増えた。アフリカ関係の書籍を出版社がちゃんと出してくれるようになった。ジェトロの事業で言えば、どれだけ小さいアフリカの国の投資セミナーでも、大体100人以上の申し込みはある。以前は集客に苦労した」
「しかし、企業の関心が具体的な数字に結びついていない。2016年の第6回アフリカ開発会議(TICAD6)で今後3年間で官民合わせて300億ドル(約3兆円)の対アフリカ投資を表明したが、外務省によれば18年9月時点で約160億ドルにとどまる」
Q:要因は。
「大企業によるアフリカ投資が一巡したからだ。日本はグローバル企業の数が少なく、すぐ一巡してしまう。また日本企業の世界市場に向けられた視線が東南アジア、中国、米国の3カ国・地域に極端に偏っていることも影響している」
「アフリカの人口増加で、21世紀の終わりには世界人口の40%はアフリカ人と予測されている。例えば宇宙人が来て地球人のサンプルを取ったら、多くの確率でアフリカ人に当たるイメージだ。人類はどんどんアフリカ化している。そうした中、アフリカまでビジネスの網を張らないと、中長期の企業の成長は期待できない」
Q:8月末に日本主導の「第7回アフリカ開発会議(TICAD7)」が横浜で開かれます。会議に期待していることは。
「80ー90年代に、アフリカの国内総生産(GDP)の約40%は公的部門が占めた。社会主義経済みたいなもので、市場が機能する空間が小さかった。しかし、2003年頃から高度成長が10年続き、この中で民間部門が厚くなった。外資が入り、アフリカの中の企業もどんどん出てきた。いくつか日本にはないぐらいの非常に大きな多国籍企業が誕生した。アフリカ大陸は54カ国と、国の数が多い。一つひとつの国にとどまっていたら、規模の経済が働かない。急成長した企業は内資であれ外資であれ、必ず多国籍展開で国境を越えている。政府は定義上、国境を越えられない。急成長のハンドルを握っていたのは企業だった。企業が経済の動向を占う最大のアクターになった。これが20世紀末のアフリカと今のアフリカの大きな違いだ」
「つまり日本企業にとっては、アフリカにパートナーがいる。TICAD7に合わせ、数百のアフリカ企業が横浜にやってくる。それだけカウンターパートがいる地域になった。企業はアフリカの経済が好不況にあっても、常に競争しているので、勝ち組は常に勝っている。そういう本来の市場経済がアフリカで動いている。ぜひ今回の会議を契機にアフリカまで目を向け、より多くのアフリカ企業に触れ、何らかのビジネスチャンスをつかんでほしい」
日刊工業新聞2019年8月14日(政治・経済)に加筆