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海洋プラスチックごみ問題に見る、EUのしたたかさと日本の発信力

海洋プラスチックごみ問題に見る、EUのしたたかさと日本の発信力

G20軽井沢会合ではプラスチックごみをめぐり議論が交わされた

 サーキュラー・エコノミー(循環経済)と呼ばれる新たな経済のあり方が世界的な関心を集めている。限られた資源を繰り返し利用することで、資源循環と経済成長の両立を目指すこの概念、6月に長野県で開催された「G20持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合」(G20軽井沢会合)の共同声明にも盛り込まれ、官民の取り組みが加速するとみられる。「市場競争の座標軸を変える」との指摘もある「循環経済」のインパクトと可能性に迫る。

高まる対策機運


 長野県で開催されたG20軽井沢会合。会場近くには、日本企業が開発したリサイクル製品や素材技術がずらり展示され、さながら先進技術の見本市の様相だった。

 今回のG20サミットは、海洋プラスチックごみが主要議題のひとつとなった。プラスチックごみをめぐっては、最大の受け入れ国であった中国が2017年に輸入を禁止したことから先進国のプラスチックごみが東南アジアなどの途上国に殺到し、国際問題として大きくクローズアップされた。深刻な海洋汚染が報じられたことも社会的な関心の高まりに拍車をかけ、対策機運を高めた。

 日本は議長国として対策をめぐる一連の議論を主導し、参加国は海洋プラスチックごみによる追加的な汚染を2050年までにゼロにすることを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を共有した。各国が行動計画を策定し自主的に削減に取り組み、進捗状況を報告する国際的な枠組みも創設。今秋には、新たな取り組みへ向けた初会合を日本で開催予定で、具体策を協議する。

本質はどこに


 海洋プラスチックごみ問題は、廃棄物の適切な管理とともに3R(リデュース、リユース、リサイクル)の重要性に目が向けられる発端となったことは事実である。しかし、サーキュラー・エコノミーは、プラスチック製品のリサイクルにとどまるものではなく、もっと広範で、かつ経済政策に直結する概念だ。廃棄物処理や3Rを通じた循環型社会の実現は今に始まった話ではないが、どこがどう異なるのか。

 ポイントは「サーキュラー」(円)にある。これまでの大量生産・大量消費は、調達→生産→消費→廃棄といった一方向の経済であるのに対し、再利用や再生産はもとより、省資源の製品開発、さらには修繕を重ね繰り返し使用することや、製品の利用形態を所有から共同利用へと転換させるといった取り組みを通じて、資源をできるだけ循環(サーキュラー)させていく発想だ。

 製品の価値を長く保ち、廃棄物の発生は最小限にとどめることで、持続可能で低炭素な社会を実現。かつ、新たなビジネスの創出を通じて産業競争力の向上を目指すところに特徴がある。

EU流の手法


 この概念を政策として推進する方針を2015年に打ち出したのが欧州連合(EU)である。「資源の枯渇や価格変動から企業を守り、新たなビジネスチャンスと革新的な生産方法と消費を生み出すことで、新たな競争力を高める『経済政策』」と明確に位置づけている。

 EU流の手法に対し、日本の経済界の中には「EU域内の製造業に復権の機会を与える政策」との見方もあるが、一方で、AI(人工知能)やIoTといったデジタル技術の進展によって、ものづくりのあり方が大きく変わりつつあるいま、これからの成長モデルに合致する発想であることは事実だ。

 製品を生み出すだけでなく、機能や価値を提供するプラットフォームやソリューションビジネスは、資源を無駄なく利用し、価値を最大限に生かすサーキュラー・エコノミーの概念にも合致するからだ。とかく二項対立的に捉えられがちだった環境と経済成長が、サーキュラー・エコノミー型ビジネスモデルという競争戦略として語られる意義は大きい。
ストローやパッケージを試す世耕大臣

 
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
8月のMETIジャーナルの政策特集は「循環経済が社会を変える」です。サーキュラー・エコノミーをめぐる世界の潮流。日本の産業政策やビジネス戦略に具体的にどのような影響を及ぼすのか。次回以降は有識者の話をもとにその「本質」を考える。

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