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トラクションモーターの受注殺到、日本電産会長「第4、第5工場も考える」

トラクションモーターの受注殺到、日本電産会長「第4、第5工場も考える」

永守会長(右)(写真は4月16日)

日本電産の永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)は、24日に都内で開いた決算説明会で電気自動車(EV)増により「(EVの車輪を駆動させる)トラクションモーターの受注が殺到している。欧州のOEM(相手先ブランド)メーカーからも大きな引き合いがある」と述べた。4月時点での受注数量計画は19年度が10万台、20年度が20万台、21年度が21万台だったが、7月時点では20年度に30万台、21年度に50万台と受注数量が大幅に増加していることを明らかにした。

 生産能力が追いつかないと見越し、第2工場、第3工場の立ち上げを計画している。さらに「受注しながら、第4、第5工場も考 える必要がある」(永守会長)とした。

日刊工業新聞2019年7月25日



変わる自動車、「マーケットに先行して投資」


 日本電産が電気自動車(EV)をターゲットに車載事業の規模を大きく拡大する。100年に1度と言われる自動車業界の激変期。車の3要素「走る・曲がる・止まる」に関わるモーターなどの製品群をそろえる日本電産は、2025年をめどにEV用プラットフォーム(車台)事業へ参入し、同事業で30年度に約1兆円の売上高を目指す方針だ。強気に攻める背景には、車産業で聞こえ始めた“地殻変動の音”がある。

 「マーケットに先行して投資を行う」(永守重信会長)―。

 この言葉通り、日本電産は車の電動化、EV化の波を見据えて車載事業の強化を進めてきた。18年度の車載事業の売上高は10年度比4倍強の2973億円。全体の売上高に占める割合も同約10ポイント増の19・5%と存在感が増している。波は「来てからでは遅い。いわば『待ち伏せ』だ」。永守会長は力を込める。

 EV化の波は自動車産業に変革を迫っている。エンジン車に比べてEVは部品点数が少なく、仕組みも簡略化できる。これにより車の産業構造が従来の垂直統合から水平分業に移ることが予想される。

 変化は新しい商機を生み出す。同社は部品サプライヤーからさらに進み、EV向け車台に参入して車載事業をより骨太にする考え。

 車台に必要な部品のうち、同社が現在手がけているのは半分程度。水平分業の流れにあってコストメリットも勘案し、部品をどこまで内製化するかが今後のポイントだ。同社にはないバッテリーシステムについては今のところ外部から調達するものと見られる。

 同社は20年度の車載事業の売り上げ目標を自律成長で6000億円、M&A(合併・買収)の効果も含めた挑戦目標として1兆円を掲げている。最近でも4月にオムロンの車載電装部品事業を約1000億円で買収すると発表。今後も車台ビジネス確立に向けたM&Aを実施する方針だ。

 吉本浩之社長は「今後はモジュール(複合)化、システム化が進む」と指摘し、「プラットフォームも考えて付加価値を上げ、車載事業の30年度売り上げ目標4兆円に近づけていく」と明かす。

 ピラミッド構造で固められた垂直統合から水平分業への地殻変動は、車市場の各プレーヤーがビジネス拡大に向けて柔軟に動ける環境を生み出す。それは流動性が高まる市場で、強みとなる個性を十分アピールできるか問われる闘いでもある。
(取材・日下宗大)

日刊工業新聞2019年6月13日



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