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攻める永守・日本電産。ルネサス買収「諦めない。ほしい企業は必ず買う」

米エマソンのお買い物は過去最大の金額。総合電機への道、加速か
攻める永守・日本電産。ルネサス買収「諦めない。ほしい企業は必ず買う」

永守会長兼社長(右)

日本電産は、2020年をめどに家電・商業・産業用モーターと関連製品事業の売上高で1兆円を目指す。2日、米国エマソンエレクトリックのモーター・ドライブと発電機事業を12億ドル(約1228億円)で買収すると発表。これにより事業規模は4500億円程度になる。製品ラインアップや従来弱かった市場を強化。「あと3社くらいの買収による成長とオーガニック成長(自律的な成長)の半々で」(永守重信会長兼社長)1兆円を実現するとした。

 約1228億円の買収は過去最大。2016年10―12月期中の買収完了を目指す。永守会長兼社長は今回の買収により、家電・商業・産業用モーターと関連製品事業が「世界的にも遜色ない規模。十分に世界で戦える規模感になっている」とし、製品ラインアップや対象市場強化のための「パズルはだいたい埋まった」と自信をみせた。

 現在の日本電産の産業用モーターは、米NEMA規格準拠製品が中心で北米地域に強い。一方、買収事業の製品群は、欧州とアジア地域に強いIEC規格に準拠している。また、日本電産は10メガワット以上の中圧発電機に強いが、買収により10メガワット未満の中・低圧発電機を手に入れ、ドライブを含めフルラインアップの総合メーカーの道筋が見える。「すべてがモーター単体のビジネスではない。制御が付き、複合化した商品を顧客は求めている。そうした商品でないと高い価値がつかなくなっている。今後さらに企業を買っていくと(より一層)モジュール化できる」(永守会長兼社長)とした。

 また永守会長は会見後に記者団に対し、ルネサスエレクトニクス買収について「諦めない。ほしい企業は必ず買う」と強調した。

「一挙に技術革新が起きている。30-40年ぶりのチャンス」


日刊工業新聞2016年1月8日


  ―スマートフォン向けを中心に電子部品の市場が不透明感を増しつつあります。
 「現在は時代の変化がものすごくスピードを増している。先進運転支援システム(ADAS)も、私が3年前に言い始めた時はまだまだ先の話だよと言われたものだが、今では大きく注文が増えている。モノのインターネット(IoT)やハプティック(触覚)デバイスも同じ。一挙に技術革新が起きており、30―40年ぶりのチャンスが来ている」

 ―そんな中で設備投資を期初計画から増額しました。
 「固定費が増えたら利益が落ちるなどと目先の業績だけ見ていたら投資できないが、それでは2020年以降の絶好のチャンスを逃してしまう。だから目先のことは少し目をつぶっても、投資しなければならない。16年度は1000億円を大きく超える設備投資額を考えている。研究開発分野でもシャープの退職者など多くの人材を採用している」

 ―設備投資の中身は。
 「車載事業で何百億円か投じて工場を大増強する。メキシコやポーランド、インド、中国で、電動パワーステアリング(EPS)用モーターやオイルポンプ、電子制御ユニット(ECU)などを増産する。投資額は300億円から500億円になるだろう。ロボット分野では減速機の増産を考えなければならない。完全自動化してしまえば人件費は関係ない。法人税の引き下げも期待できることから、国内工場の建設を考えている」

 ―あらためて16年はどのような年になりそうですか。
 「チャンスは大きいがリスクも大きい。グローバルに株価が上がっている一方、ボラティリティー(変動)が非常に大きくなっている。よほどうまくやらないとM&A(合併・買収)は成功しない。当社では15年に小規模な企業を7社買収したが、それとは別に8社の買収を見送っている。このようなことは過去になかった。技術の幅が非常に広がっているため、今後はM&Aだけでなく技術系ベンチャーへの資本参加などにも踏み込みたい」

【記者の目・成長に向けた転換点】
 インタビューの間、「30―40年ぶりのチャンス」という言葉が何度も飛び出した。好調だった電子部品業界もスマホ市場の成長鈍化で少し陰りが出てきたように見えるが、永守会長の目には今こそがさらなる成長に向けた時代の転換点と映っている。これまで以上に同社の次の一手への注目が高まらざるを得ない。
(聞き手=尾本憲由)
日刊工業新聞2016年8月3日
尾本憲由
尾本憲由 Omoto Noriyoshi 大阪支社編集局経済部
世界経済が波乱気味となり、円高も進むと、M&Aにとっては絶好の時期。日本電産の永守会長兼社長は、きっとそうほくそ笑んでいるに違いない。決して高値掴みはしない同社が過去最大の買収に踏み切ったのだから、これからM&Aが加速するのではないだろうか。精密小型モーターメーカーから総合電機への道のりが予想以上にスピードアップするかもしれない。

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