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新卒「年収1000万円」時代は到来するか。経営トップの反応は?

優秀な人材確保へ、給与体系見直す動き
 新卒の一律の給与体系を見直す動きが出てきた。売り手市場が続き、終身雇用も崩れつつある中、企業が優秀な人材確保に本腰を入れ始めたことが背景にある。「新卒年収1000万円時代」は到来するのか。経団連が長野県軽井沢町で開いた夏季フォーラムの会場で経営者に聞いた。

 「物差し自体が間違っている。日本の基準で判断すべきではない」。NECの遠藤信博会長はこう強調する。同社では10月に社外の評価を反映し、研究者の報酬を決める制度を導入する。新卒でも実績によっては年収1000万円超を支給することになる。遠藤会長は「海外企業などを見れば日本が例外であることがわかる。今のままでは(経営が)成り立たない危機感があった。(決断が)遅いくらい」と語る。

 2019年に入り、新卒の報酬体系の見直しが相次いでいる。ユニクロを運営するファーストリテイリングは入社3年以内で最大3000万円支払う仕組みを設ける。くら寿司は幹部候補生を年収1000万円で募集を始めた。

 三井住友フィナンシャルグループの国部毅会長は「当社でも海外法人の採用者には本社の社長より給与が高い者もいる。日本企業全体で考えれば、業種にもよるが(新卒の給与体系の見直しの)方向に向かうだろう」と指摘する。

 アサヒグループホールディングスの泉谷直木会長は「世の中が多様性を求めている以上、企業の中も多様になければならない。いろいろ障壁はあるが、経営者の知恵のみせどころだろう」と語る。

 経営者の多くは採用形態の多様化に伴い、日本企業の給与体系も変わっていくのではと指摘するが、実際に各企業が導入するには障壁は低くない。「制度の過渡期につきものだが、既存社員のやっかみもある。それが企業の現実」と大幅な引き上げは難しいとの声も少なくなかった。

 企業のグローバルでの人材活用に詳しい早稲田大学政治経済学術院の白木三秀教授は「(新卒の一律給与見直しは)大手企業ほど簡単ではない」と強調する。「経営トップが旗をふっても、現場での意思決定権を持つミドル層は(既存の枠組みを)自発的には変えたがらない。経営が立ち行かなくなるなど、相当な外からの力が必要なのでは」と語る。
日刊工業新聞2019年7月22日

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