METI
デジタル革命が進展中、アフリカの新しいビジネスの姿
日本はどう向き合う?
資源やインフラ開発が色濃かったアフリカビジネスが変貌を遂げつつある。2025年には中国やインドに匹敵する人口が見込まれる新興国市場としての成長性に加え、携帯電話の爆発的な普及に象徴されるデジタル革命が社会を大きく変えようとしている。固定概念を覆す「新たなアフリカ」にどう向き合うか―。戦略的な取り組みが日本企業に商機をもたらしそうだ。
5月初めに都内で開催されたシンポジウム「TICAD7プレビュー アフリカビジネスの新戦略」(日本経済新聞社主催)では、パネリストらの発言からアフリカの新たな姿が垣間見られた。
「世界のどの地域とも異なる経済発展を実現しつつあるアフリカにおいて、ビジネスチャンスを獲得するには新たな海外展開モデルが重要」。
世耕弘成経済産業大臣は、同シンポジウムにおいて、アフリカの変化に言及した上で、新たな施策で民間ビジネスを後押しする考えを示した。
「アフリカ開発会議(TICAD)」が開かれる3年ごとに、機運が盛り上がるとされてきた日本のアフリカビジネス。しかし、今回ばかりは様相が異なるようだ。
根底にあるのは、進展するデジタル革命。テクノロジーの力で、電力不足や脆弱なインフラといったアフリカ固有の課題を乗り越える新たなサービスの登場は、アフリカビジネスを展開する企業にとって事業環境の改善につながる朗報だ。しかし、潜在的な可能性はそれだけではない。
アフリカでは、自身の住所や銀行口座を持たない層、いわゆる「インフォーマルセクター」が人口の大半を占めていた。先進国型のビジネスの対象とすることが困難と考えられてきたこうした層が、モバイルのデジタル技術が一人一人に行き渡るという大革命によって突如、ビジネス対象として浮かび上がってきたのである。その規模は10億人に上るという。
例えばケニアなどで普及する、携帯電話のショートメールを使った送金サービスや「仮想住所」を提供するサービス。これまで自身の信用を示す術を持ち合わせていなかった人が、消費の表舞台に踊り出ることとなった。
政府が十分な社会インフラを整備できない分野において、民間がテクノロジーを通じ、その機能を代替するサービスを提供する動きも広がる。無電化地域で電力を提供するサービスは一例である。そして、これら革新的なビジネスを提供する主体の多くは、設立間もないスタートアップである。
「長期的な視点で捉えてきたアフリカビジネスの将来性が、スタートアップの台頭によって、現実的なものとなってきた」。長らく新興国の市場開拓に携わってきた三菱商事の渡邉泰明地域開発部長は昨今の変化をこう受け止めている。
その上で、デジタルトランスフォーメーションがもたらす変革によって基本的な生活インフラが充足し、さらなる経済成長を遂げた先には「新たなインフラ建設需要が生まれるのでは」と予測する。
アジアをはじめとする新興国市場でこれまで日本が培ってきたのは、現地にいち早く生産拠点を構え、国内同様のサプライチェーンを構築する進出モデル。段階的な産業発展の過程を経ずに、一足飛びに個人消費がけん引する経済成長を遂げるアフリカには、過去の成功体験が通用しない。
固定概念に縛られるあまり、「日本企業はビジネスチャンスをつかみ切れていないのではないか」(世耕大臣)。政府が新たな市場戦略の必要性を訴える理由はここにある。
アフリカビジネスで先行してきた企業でさえ、急激な変化を前に次なる戦略を模索している。船外機や漁船を通じて1970年代に進出し、52カ国で事業展開するなど、アフリカビジネスの先駆的企業として知られるヤマハ発動機。同社フェローで先進技術本部NV事業統括部長を務める白石章二氏は「過去の実績にとらわれず、新規事業の視点からアフリカ市場を捉えようとしている」と語る。
そのひとつがモビリティによる新たなサービスの立ち上げだ。スタートアップとも連携しながら現地の実情に合わせた物流や宅配サービスをウガンダやケニア、タンザニアなどで始める予定だ。
東アフリカ地域は一から事業を立ち上げる「ハンズオン」で、一方、日本企業にとってビジネスの「難易度が高い」とされる西アフリカ地域はベンチャーやスタートアップへの出資を通じて、これを実現する構えだ。将来は「『こんなサービスもヤマハ発動機が手がけているのか』と思われるようなビジネスを展開したい」と意欲を示す。
デジタル技術がもたらす社会の変革。社会課題を克服する過程で生まれるイノベーションはアフリカを起点に世界展開できる可能性を秘めており、しかも特定の産業分野だけが恩恵を受けるものでもない。だからこそ、多くの企業にとって、これからのアフリカビジネスが大きな意味を帯びてくるのである。
「世界のどことも異なる」経済発展
5月初めに都内で開催されたシンポジウム「TICAD7プレビュー アフリカビジネスの新戦略」(日本経済新聞社主催)では、パネリストらの発言からアフリカの新たな姿が垣間見られた。
「世界のどの地域とも異なる経済発展を実現しつつあるアフリカにおいて、ビジネスチャンスを獲得するには新たな海外展開モデルが重要」。
世耕弘成経済産業大臣は、同シンポジウムにおいて、アフリカの変化に言及した上で、新たな施策で民間ビジネスを後押しする考えを示した。
「アフリカ開発会議(TICAD)」が開かれる3年ごとに、機運が盛り上がるとされてきた日本のアフリカビジネス。しかし、今回ばかりは様相が異なるようだ。
根底にあるのは、進展するデジタル革命。テクノロジーの力で、電力不足や脆弱なインフラといったアフリカ固有の課題を乗り越える新たなサービスの登場は、アフリカビジネスを展開する企業にとって事業環境の改善につながる朗報だ。しかし、潜在的な可能性はそれだけではない。
アフリカでは、自身の住所や銀行口座を持たない層、いわゆる「インフォーマルセクター」が人口の大半を占めていた。先進国型のビジネスの対象とすることが困難と考えられてきたこうした層が、モバイルのデジタル技術が一人一人に行き渡るという大革命によって突如、ビジネス対象として浮かび上がってきたのである。その規模は10億人に上るという。
例えばケニアなどで普及する、携帯電話のショートメールを使った送金サービスや「仮想住所」を提供するサービス。これまで自身の信用を示す術を持ち合わせていなかった人が、消費の表舞台に踊り出ることとなった。
政府が十分な社会インフラを整備できない分野において、民間がテクノロジーを通じ、その機能を代替するサービスを提供する動きも広がる。無電化地域で電力を提供するサービスは一例である。そして、これら革新的なビジネスを提供する主体の多くは、設立間もないスタートアップである。
「ビジネスが現実的なものに」
「長期的な視点で捉えてきたアフリカビジネスの将来性が、スタートアップの台頭によって、現実的なものとなってきた」。長らく新興国の市場開拓に携わってきた三菱商事の渡邉泰明地域開発部長は昨今の変化をこう受け止めている。
その上で、デジタルトランスフォーメーションがもたらす変革によって基本的な生活インフラが充足し、さらなる経済成長を遂げた先には「新たなインフラ建設需要が生まれるのでは」と予測する。
アジアをはじめとする新興国市場でこれまで日本が培ってきたのは、現地にいち早く生産拠点を構え、国内同様のサプライチェーンを構築する進出モデル。段階的な産業発展の過程を経ずに、一足飛びに個人消費がけん引する経済成長を遂げるアフリカには、過去の成功体験が通用しない。
固定概念に縛られるあまり、「日本企業はビジネスチャンスをつかみ切れていないのではないか」(世耕大臣)。政府が新たな市場戦略の必要性を訴える理由はここにある。
先駆者の挑戦
アフリカビジネスで先行してきた企業でさえ、急激な変化を前に次なる戦略を模索している。船外機や漁船を通じて1970年代に進出し、52カ国で事業展開するなど、アフリカビジネスの先駆的企業として知られるヤマハ発動機。同社フェローで先進技術本部NV事業統括部長を務める白石章二氏は「過去の実績にとらわれず、新規事業の視点からアフリカ市場を捉えようとしている」と語る。
そのひとつがモビリティによる新たなサービスの立ち上げだ。スタートアップとも連携しながら現地の実情に合わせた物流や宅配サービスをウガンダやケニア、タンザニアなどで始める予定だ。
東アフリカ地域は一から事業を立ち上げる「ハンズオン」で、一方、日本企業にとってビジネスの「難易度が高い」とされる西アフリカ地域はベンチャーやスタートアップへの出資を通じて、これを実現する構えだ。将来は「『こんなサービスもヤマハ発動機が手がけているのか』と思われるようなビジネスを展開したい」と意欲を示す。
デジタル技術がもたらす社会の変革。社会課題を克服する過程で生まれるイノベーションはアフリカを起点に世界展開できる可能性を秘めており、しかも特定の産業分野だけが恩恵を受けるものでもない。だからこそ、多くの企業にとって、これからのアフリカビジネスが大きな意味を帯びてくるのである。