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“買わない三菱電機”のDNA―キャッシュリッチ企業に変化が訪れる?

伊の空調メーカー買収 「必要なら次の一手、二手を打っていきたい」(柵山社長)

「新規分野はあまり考えていない。相手まかせだとやっても意味がない」


山西健一郎社長(現会長)インタビュー


日刊工業新聞2011年1月13日付


 ―独半導体メーカー、ビンコテックの買収は20年ぶりの本格的なM&Aでした。意思決定も早かったです。
 「4、5点のリスクを短時間でつぶしていった。例えばモノづくりには基本的なレベルがある。相手側の工場を何度も見に行かせ、満足できる内容だと確認した。私が昨年3月まで半導体・デバイス事業本部長だったので競合関係などを把握していたことも、スピード感につながったと思う。ただし、ほかの事業でも決断が遅れることはない。ビンコテックは小容量のパワー半導体の開発や欧州の販路を強化できるほか、為替ヘッジにもなる」

 ―2003年にシステムLSIを日立製作所と事業統合(現ルネサスエレクトロニクス)した際、パワー半導体は自社に残しました。当時から重要技術になるという確信があったのですか。
 「それはあった。パワー半導体を伸ばすというより、それを搭載する家電、鉄道電機品、昇降機など三菱電機のパワーエレクトロニクス製品の競争力を上げるために、手の内に残すのが狙いだった。当時搭載製品は7000億円規模で、今は1兆円になっている。次世代のSiC(炭化ケイ素)はほかの半導体メーカーも力を入れているが、チップだけ作ってもものにならない。モジュール特性を調整する応用技術が強みになる」

 ―この10年間、国内電機各社は事業統合や再編を繰り返してきました。その評価は。
 「トータルでみれば三菱電機にとっても、日本全体にとってもプラスだったと思う。うまくいかず元に戻ったケースもあるが、問題点が“見える化”され原因追及にもつながった。今後、M&Aで何を注意すべきか、各社とも理解している」

 ―今春には日立、三菱重工業と水力発電システム事業を統合します。国内メーカーは強みが似通っているケースが多く、グローバルを強化するなら海外企業との提携の方が得策では。
 「国内外問わず、強みの違う企業が一緒になった方がいいと思う。水力の場合は重工が水車、三菱電機が発電機と重複していない。日立が入ったのは一定の事業規模がないと、人材育成などが継続的にできないからだ。日本は揚水発電で競争力がある。しかし国内市場は縮小傾向で、このままでは技術が枯渇してしまう。海外は水力発電の需要はこれからも伸びる。M&Aの要素の中で、人材確保は一番に重要だ」

 ―ビンコテックの売り上げ規模は100億円以下です。1000億円を超える案件に挑戦する考えは。また新規分野でM&Aをする可能性は。
 「私たちのM&Aはむやみに規模拡大を追うのではなく、弱点を補完するのが目的。該当する案件であれば金額の大小はない。ただ新規分野はあまり考えていない。三菱電機がコントロールできず、相手まかせだとやっても意味がない」


下村節宏社長(現相談役)「『1+1』が必ずしも『2』にならない」


日刊工業新聞2008年9月17日付 


 ー中期的にM&A(企業の合併・買収)などによる規模拡大に動きますか。
 「規模はある方がベターだが、なければやっていけないようでは駄目。もし他社を買収しても相手の製品や設備をすべて変えないといけない。『1+1』が必ずしも『2』にならない。それなら自社で投資した方が賢明だ。社内には規模だけを追うなと言っている」

 
日刊工業新聞2015年08月26日 4面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
三菱電機が掲げる経営指標は営業利益率、借入金比率、株主資本利益率(ROE)の三つ。自己資本が積み上がる経営体質のため、当期純利益の絶対額を増やさなければROEが下がってしまう。今年度から投下資本利益率(ROIC)を導入したが、依然として「資本を寝かせている」という市場からの圧力は強い。2014年3月期のROEは10・9%で、日立の11・2%に劣る。M&Aという飛び道具を敬遠し、リスクの低い自前主義にこだわってきたが、慎重な経営手法のままでは国際競争から取り残される恐れもある。柵山社長は5月の経営説明会で「事業の成長に資するM&Aは実施する」と宣言したが、その言葉に対する市場の期待は柵山氏が考えるよりも大きい。  

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