ノーベル賞受賞!「世界を変えて欲しい…」吉野氏が感動した言葉
欧州発明家賞の受賞で会見
2019年のノーベル化学賞は旭化成の吉野彰名誉フェローに贈られることが9日、決まった。6月に欧州で欧州発明家賞を受賞した際の会見を再掲載する。
名城大学大学院理工学研究科の吉野彰教授(旭化成名誉フェロー、写真)は1日、名古屋市天白区の名城大で会見し、リチウムイオン電池の開発で2019年欧州発明家賞の非欧州部門を受賞したことについて「現在のIT社会の実現に貢献し、今後の地球環境問題に関して大きな使命を果たし、世界を変えてほしいと言われ感動した」と喜びを語った。
また「特許をベースに業績を評価されたことが印象的だった。今後は環境問題などの観点も重要と考え、研究に関わっていきたい」と話した。
〈全固体電池〉の蓄電量に直結する体積エネルギー密度を、研究ベースで、2022年に車載用リチウムイオン電池の約2倍に引き上げる産学官の巨大プロジェクトが始動した。同じ大きさの電池であれば航続距離も2倍となる。集まった関係者の間には、全固体電池への大きな期待と同時に、1社単独で実現は難しいという危機感がある。民間23社と大学・研究機関15法人はどうやって高い目標を実現するのか。→全固体電池の概要は連載1回目を参照
リチウムイオン電池の発明者の一人で、旭化成名誉フェローの吉野彰氏は、「今回のプロジェクトは、各社が他社を様子見する状態になってはいけない」と決意を込めて語る。吉野氏は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から同プロジェクトを委託されたリチウムイオン電池材料評価研究センター(LIBTEC)の理事長を務めている。一般的に競合企業が相乗りする研究では、「自社の成果を小出しにして、競合企業の進捗を探り合う」(電機メーカー幹部)ことが少なくない。
リチウムイオン電池市場で日本の存在感が薄れていく中、プロジェクト関係者には「全固体電池では海外メーカーに絶対に負けられない。必ず実用化につながるように取り組む」(パナソニックの藤井映志テクノロジーイノベーション本部資源・エネルギー研究所長)という思いが強い。それには、世に出るまでは協力し、研究スピードを上げなければ始まらない。
吉野理事長は、「(LIBTECのある大阪府)池田市に研究者が続々と集結してきている」と語る。トヨタ自動車やパナソニック、旭化成といった自動車と蓄電池、材料それぞれの業界を代表する企業から研究者が集まり、LIBTEC内に60人、外部の研究所と合わせて合計100人がプロジェクトに参加する。同じ場所で研究に取り組むことで、関係を築いていく。
世界で最も多くの全固体電池の特許を持つトヨタ自動車の射場英紀電池材料技術・研究部担当部長は、「長年取り組んでいるが、課題は山積している。一枚岩で取り組んでいただけるのは心強い」と感謝を口にした。同社の持つ特許の一部も、必要なものはプロジェクトメンバーと共有する考えだという。
日産自動車の森春仁総合研究所研究企画部長は、「全固体電池は電気自動車(EV)の魅力を広げられる。縦横(異業種と同業)の連携で一つずつ問題を解いていきたい」と期待する。自動車大手は世界的なEVシフトの動きをキャッチアップし、リードすることが喫緊の課題だ。全固体電池が実用化できれば、大きな武器になる。
電池メーカーや研究機関などによると、現在EVに搭載されているリチウムイオン電池の体積エネルギー密度は1リットル当たり400ワット時程度と見られる。NEDOが全固体電池の量産時のベンチマークとする同600ワット時を達成すれば、サイズが同じならリチウムイオン電池の1・5倍の高容量、研究ベースの目標の同800ワット時では2倍の電池となる。同じ蓄電容量なら電池を大幅にコンパクト化でき、車の設計の自由度が増す。
この目標に、プロジェクトでは二つの研究アプローチを取る。一つ目のアプローチは、従来と同じ電池材料を使い、電極層を厚く、電解質層を薄くして、体積エネルギー密度を同450ワット時まで増やす。電極を厚くして電池内を行き来できるリチウムイオンを増やし、エネルギー密度を高める。固体電解質は、イオンの動きやすさが電解液と同程度か少し動きにくいものを使う。
二つ目のアプローチは同800ワット時を目指すもので、電極を厚くするとともに、材料を変更する。正極では高電圧対応の材料、負極ではシリコンやリチウムといった新しい材料に挑戦する。両アプローチともに2022年を開発目標としている。
準備段階として、17年度まで実施したプロジェクトでは、体積エネルギー密度は同200ワット時だった。現在のリチウムイオン電池より低く、5年後の目標とかなり差があるが、「17年度までは材料を評価するための標準電池作成が目的で、エネルギー密度を上げることが目的ではなかった」(NEDO広報部)としている。
一方、国際競争の中で、〈オール・ジャパン〉で固めた研究体制は不自然にも見える。これに対し、東京工業大学の菅野了次教授は、「日本にこだわりがあるのではない。日本は研究者の層が厚いため、新しい電池が出てくる時は、必ず日本から出てくる」と話す。全固体電池の特許件数の半分は日本が保有している。海外も研究を加速しているが、歴史の長さは強みになる。
日本は技術革新を強みとしながら、最近では量産初期から日本が高いシェアを持ち、大きく市場が成長する強い製品を生み出せていない。かつては、液晶パネルディスプレーやリチウムイオン電池がそうだった。日本のお家芸のすり合わせ技術を生かせる電池の分野で、強い〈世界初〉を生み出せるか注目される。
※内容・肩書等は当時のもの
①全固体電池研究ブームをつくった研究者が語る最前線/東京工業大学・菅野了次教授
②電池を左右する1ナノメートルの世界を解明へ
③コバルト、リチウム・・・資源不足の事実と誤解
④EV航続距離を2倍に?!巨大プロジェクトの全貌
リチウムイオン電池の開発で受賞
名城大学大学院理工学研究科の吉野彰教授(旭化成名誉フェロー、写真)は1日、名古屋市天白区の名城大で会見し、リチウムイオン電池の開発で2019年欧州発明家賞の非欧州部門を受賞したことについて「現在のIT社会の実現に貢献し、今後の地球環境問題に関して大きな使命を果たし、世界を変えてほしいと言われ感動した」と喜びを語った。
また「特許をベースに業績を評価されたことが印象的だった。今後は環境問題などの観点も重要と考え、研究に関わっていきたい」と話した。
欧州発明家賞
ドイツ・ミュンヘンに本部を置く欧州特許庁(EPO)が2006年に創設した欧州で最も権威ある発明家賞。「産業」「研究」「中小企業」「非ヨーロッパ諸国」「功労賞」の5部門と一般投票で決定する「ポピュラープライズ」で構成。毎年5部門から各3人(チーム)計15人(チーム)が最終選考者としてノミネート。審査委員会で各部門1人(チーム)が選ばれ、受賞者となる。日本は過去に5チームがノミネートされ、14年にデンソーウェーブの原昌宏氏らがQRコードで「ポピュラープライズ」、15年に飯島氏らがカーボンナノチューブで非ヨーロッパ部門を受賞した。
日刊工業新聞2019年7月2日
「車載電池」巨大プロジェクトの全貌
〈全固体電池〉の蓄電量に直結する体積エネルギー密度を、研究ベースで、2022年に車載用リチウムイオン電池の約2倍に引き上げる産学官の巨大プロジェクトが始動した。同じ大きさの電池であれば航続距離も2倍となる。集まった関係者の間には、全固体電池への大きな期待と同時に、1社単独で実現は難しいという危機感がある。民間23社と大学・研究機関15法人はどうやって高い目標を実現するのか。→全固体電池の概要は連載1回目を参照
探り合いはやめる
リチウムイオン電池の発明者の一人で、旭化成名誉フェローの吉野彰氏は、「今回のプロジェクトは、各社が他社を様子見する状態になってはいけない」と決意を込めて語る。吉野氏は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から同プロジェクトを委託されたリチウムイオン電池材料評価研究センター(LIBTEC)の理事長を務めている。一般的に競合企業が相乗りする研究では、「自社の成果を小出しにして、競合企業の進捗を探り合う」(電機メーカー幹部)ことが少なくない。
リチウムイオン電池市場で日本の存在感が薄れていく中、プロジェクト関係者には「全固体電池では海外メーカーに絶対に負けられない。必ず実用化につながるように取り組む」(パナソニックの藤井映志テクノロジーイノベーション本部資源・エネルギー研究所長)という思いが強い。それには、世に出るまでは協力し、研究スピードを上げなければ始まらない。
吉野理事長は、「(LIBTECのある大阪府)池田市に研究者が続々と集結してきている」と語る。トヨタ自動車やパナソニック、旭化成といった自動車と蓄電池、材料それぞれの業界を代表する企業から研究者が集まり、LIBTEC内に60人、外部の研究所と合わせて合計100人がプロジェクトに参加する。同じ場所で研究に取り組むことで、関係を築いていく。
トヨタが一部特許を共有か
世界で最も多くの全固体電池の特許を持つトヨタ自動車の射場英紀電池材料技術・研究部担当部長は、「長年取り組んでいるが、課題は山積している。一枚岩で取り組んでいただけるのは心強い」と感謝を口にした。同社の持つ特許の一部も、必要なものはプロジェクトメンバーと共有する考えだという。
日産自動車の森春仁総合研究所研究企画部長は、「全固体電池は電気自動車(EV)の魅力を広げられる。縦横(異業種と同業)の連携で一つずつ問題を解いていきたい」と期待する。自動車大手は世界的なEVシフトの動きをキャッチアップし、リードすることが喫緊の課題だ。全固体電池が実用化できれば、大きな武器になる。
電池メーカーや研究機関などによると、現在EVに搭載されているリチウムイオン電池の体積エネルギー密度は1リットル当たり400ワット時程度と見られる。NEDOが全固体電池の量産時のベンチマークとする同600ワット時を達成すれば、サイズが同じならリチウムイオン電池の1・5倍の高容量、研究ベースの目標の同800ワット時では2倍の電池となる。同じ蓄電容量なら電池を大幅にコンパクト化でき、車の設計の自由度が増す。
二つのアプローチ
この目標に、プロジェクトでは二つの研究アプローチを取る。一つ目のアプローチは、従来と同じ電池材料を使い、電極層を厚く、電解質層を薄くして、体積エネルギー密度を同450ワット時まで増やす。電極を厚くして電池内を行き来できるリチウムイオンを増やし、エネルギー密度を高める。固体電解質は、イオンの動きやすさが電解液と同程度か少し動きにくいものを使う。
二つ目のアプローチは同800ワット時を目指すもので、電極を厚くするとともに、材料を変更する。正極では高電圧対応の材料、負極ではシリコンやリチウムといった新しい材料に挑戦する。両アプローチともに2022年を開発目標としている。
準備段階として、17年度まで実施したプロジェクトでは、体積エネルギー密度は同200ワット時だった。現在のリチウムイオン電池より低く、5年後の目標とかなり差があるが、「17年度までは材料を評価するための標準電池作成が目的で、エネルギー密度を上げることが目的ではなかった」(NEDO広報部)としている。
強い〈世界初〉へ
一方、国際競争の中で、〈オール・ジャパン〉で固めた研究体制は不自然にも見える。これに対し、東京工業大学の菅野了次教授は、「日本にこだわりがあるのではない。日本は研究者の層が厚いため、新しい電池が出てくる時は、必ず日本から出てくる」と話す。全固体電池の特許件数の半分は日本が保有している。海外も研究を加速しているが、歴史の長さは強みになる。
日本は技術革新を強みとしながら、最近では量産初期から日本が高いシェアを持ち、大きく市場が成長する強い製品を生み出せていない。かつては、液晶パネルディスプレーやリチウムイオン電池がそうだった。日本のお家芸のすり合わせ技術を生かせる電池の分野で、強い〈世界初〉を生み出せるか注目される。
ニュースイッチ2018年06月21日
※内容・肩書等は当時のもの
連載「EVドミノ」掲載記事
①全固体電池研究ブームをつくった研究者が語る最前線/東京工業大学・菅野了次教授
②電池を左右する1ナノメートルの世界を解明へ
③コバルト、リチウム・・・資源不足の事実と誤解
④EV航続距離を2倍に?!巨大プロジェクトの全貌