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カネカ問題が火を付けたわけではないが、「男性の育休」企業に熱量

取得率向上へ職場改革
カネカ問題が火を付けたわけではないが、「男性の育休」企業に熱量

メッセージを発信する三菱ケミカルの和賀社長

 カネカの元男性社員が育児休業明けに転勤を命じられたことを家族が参加交流型サイト(SNS)に投稿し、それをきっかけに育休への関心が高まっている。個社の問題を超え、今も男性が育休しづらい現状が浮き彫りになった。日本企業は昨今、全員が安心して働き、能力を発揮できる「働き方」とは何かを模索している。制度だけでは十分ではなく、本当の解決は個々の職場でしか生まれない。制度と職場の両面で男性社員の育児に向き合い、多くの社員がいずれ直面する介護問題などにも備えていく必要がある。

 育休は社内での制度の周知、社員に対する上司や周囲のフォロー体制、人事評価制度との連携なども含め、人材育成や働き方改革といった取り組みも交えて中長期の施策として展開しなければ根付かない。制度があるからといって一朝一夕で取得率が高まるものではない。

【住友化学】人事部がアシスト


 住友化学は、男性の育休取得率が2017年度の18・7%(175人)から、足元で約40%まで上がってきた。配偶者の出産時に取得できる出産サポート休暇の取得率は実質100%で、育休はこれと別枠。20年までに男性の育休取得率50%以上を目指す。

 会社に子どもの出生を連絡すると、人事部長から「おめでとう」の言葉とともに、育休などの利用可能な制度を知らせるメールが本人と上司宛てに届く。「知らなくて利用できなかった」ことを防ぎ、上司と育休について話すきっかけになる。

 育休の一部は有給で取得でき、事業所内保育所はもちろん男性社員も利用する。同社では「育休に限らず、介護で休む人もいる。社内には『お互いさま』という雰囲気がある」という。普段から何でも言えるコミュニケーションが働き方の多様化につながる。
住友化学の事業所内保育所「すみかキッズえひめ」(愛媛県新居浜市)

【三菱ケミカル】社長が動画発信


 三菱ケミカルは19年度から「男性の育児休職または時短取得率100%」を目標に掲げた。同社は、あるべき姿の実現に向け、「三菱ケミカルは決めました」というタイトルで30の宣言を取りまとめた。100%取得の目標は宣言の一つだ。

 19年3月までの約3年で男性の育休取得者数は87人。これと別に陣痛後8週間以内に3日間取得できる配偶者出産休暇がある。同社は「出産直後の里帰りから戻った時にも取得できる」と工夫を重ねる。

 育休を含む働き方改革は和賀昌之社長の肝いりだ。自らのメッセージ発信にも力を入れ、30の宣言の社内向け動画第1弾では、元サッカー日本代表監督の岡田武史氏と対談し、生き生きした職場づくりへの熱意を語った。動画で自然に制度を知ってもらい、「使いたおす」ことを後押しする。

【大成建設】育児への意識変革


 大成建設も16年7月から「男性育児休業取得率100%」に取り組む。女性をはじめ多様な人材が活躍する風土の醸成が目的だ。建設業は男性が多く労働時間も長い傾向にある。男性の働き方を見直し、家庭や育児に対する意識を変える必要があると判断した。

 男性の育休制度は2歳未満の子どもがいる社員が対象。育休期間中の平日5日間が有給扱いになる。16年度に子どもが生まれた社員259人のうち取得者は244人、育休取得率は94・2%を達成した。18年度の男性育休取得者は165人で30代が112人、20代が37人の順。6日以上の取得は112人と全体の約67%を占める。

【三菱UFJ銀行】上司の評価項目に


 三菱UFJ銀行は2歳未満の子どもを持つ国内全ての男性行員を対象に、育休取得を強く推奨する。育児計画書を作成し、上司が仕事の配分などを管理することで、男性の育休取得促進や女性の社会進出などを支援する。

 年間で最長1カ月の育休推奨は3メガバンクグループでは初の取り組みで5月にスタートした。上司に対し部下の育休の取得を人事評価の対象にすることにした。子どもが生まれる6週間前から育児に関わる計画を提出することで取得できる。対象は約1200人。16年度に始めた最大10日の短期育休は取得率が8割となったものの、平均取得日数は2日にとどまっていた。

「パタハラ」罰則検討


 男性の育休取得が求められる背景には、女性の社会進出や共働き世帯の増加といった社会環境の変化がある。政府は20年に男性の育休取得率を13%にする目標を掲げるが、現状は6%台にとどまる。政府はもちろん、企業も積極的に対策を講じる必要がある。

 自民党の「男性の育休『義務化』を目指す議員連盟」が5日に発足。17日には安倍晋三首相に育休義務化に向けた提言を提出した。同連盟は男性が育休を取得しやすい環境を整備するため、育児・介護休業法の改正なども含め対応策を検討する。本人から申請がなくても企業側から育休を与える仕組みや中小企業の支援策なども議論。育休を取得する男性に対する嫌がらせ「パタニティーハラスメント(パタハラ)」への罰則規定についても検討するという。

専門家の見方「子育ては仕事にも通じる」


<全日本育児普及協会会長・佐藤士文(しもん)氏>

 育児をしたい男性は増えているが、育休取得率はたった6%程度。取得しにくい雰囲気の職場は少なくなく、職場で最初の取得者になるには勇気がいる。男性の育休「義務化」を目指す議員連盟の発足は一歩前進だと思う。これは個人への義務ではなく、本人の申請がなくても企業が育休を促すことを義務付ける。決定権を持つ人が変わることは重要だ。

 子育ての経験は仕事にも役立つ。限られた時間の中で保育所へのお迎えや食事などを済ませるには時間管理やマルチタスクの能力が必要。子どもとのコミュニケーションは、わかりやすく、顔を見て接することがポイントで、部下へのコーチングに似ている。今は男性の子育ては珍しく、仲間をつくりやすい。積極的に育児を楽しんでほしい。(談)
※全日本育児普及協会は“全ての人が育児を”を掲げ12年8月に設立。横浜市から育児支援業務を受託し、18年は年54回の講座を運営。出前授業や父親向け子育てバッグ開発など地域に密着した多様な活動を展開する。父親コミュニティー「ヨコハマダディ」には50―60人が参加し、情報交換や父子旅行なども行う。

                   
日刊工業新聞2019年6月19日

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