「ルノー・FCA」誕生で、連合関係見直し?厳しい選択を迫られる日産
仏・伊政府VS日産の構図も、シナジー創出待ったなし
世界3位の自動車メーカー誕生に向けた交渉が動きだした。欧米フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)が経営統合を提案し仏ルノーは検討を始めた。ルノーと組む日産自動車・三菱自動車は企業連合の規模拡大につながる点などを評価し、前向きに連携強化の方向性を探る。ただルノー・FCAの統合交渉が進展しパワーバランスが崩れれば、日産がこだわる独立・対等な関係を維持できなくなる懸念がある。
「FCAの北米での存在感は圧倒的。欧州中心のルノーにとってなかなか良いパートナーだ」―。FCAの自動車部品部門マニエッティ・マレリを5月に買収したカルソニックカンセイ幹部はこう指摘する。
ルノー・FCAの組み合わせで特徴的なのは主力地域や車種ラインアップで重複が少ない点だ。ルノーは欧州、ロシアを主力地域とするのに対し、FCAは北米や南米で強い。車種はルノーが中小型車を中心とする一方、FCAはスポーツ多目的車(SUV)やピックアップトラック、高級車で存在感を発揮する。ルノーは電気自動車(EV)、FCAは自動運転と先進分野で注力ポイントが異なる点も見逃せない。
乗用車とピックアップトラックでは部品仕様が異なり共通化は望めないなど難点もある。だが地域、車種、先進分野で相互補完しながら、両社で約870万台に達する販売規模を生かし調達などでシナジーを発揮できる潜在性はある。「悪くない組み合わせ」とみる業界関係者は多い。
ただ統合効果を最大化する上で「パズルのピースが欠けている」と遠藤功治SBI証券企業調査部長は指摘する。最後のピースと期待されるのが日産と三菱自だ。地域展開では日産が強い中国、三菱自が存在感を示す東南アジアもカバーできるようになる。EVやプラグインハイブリッド車(PHV)など電動技術にも厚みが出る。
FCAがルノーに示した統合案の枠組みには日産、三菱自は含まれないが、FCAは両社とも「連携していく」との考えを示した。ルノーのジャンドミニク・スナール会長も「企業連合の枠組みで実現する必要がある」と関与を求める。日産幹部は「FCAは日産や三菱自の技術がほしいのだろう」と推測する。
29日、来日したルノーのスナール会長とティエリー・ボロレ最高経営責任者(CEO)が日産の西川広人社長兼CEO、三菱自の益子修会長兼CEOらに1時間40分ほどFCAとの統合について説明した。ルノーとFCAの統合が実現すれば、4社の販売は1500万台を超え世界トップに躍り出る。
西川社長は「連合の間口が広がるのは非常にポジティブ。日産の利益につながるか細かくみていきたい」と前向きに評価した。「電動化など自動車業界が変革期にある中、戦える集団になる」(日産幹部)との声も上がる。
益子会長は「当社が積極的に関わっていくかは検討を要する」と慎重姿勢もみせるが、ルノーとFCAの統合に日産・三菱自が関与していく方向にあることは間違いない。焦点はそれがどのような形になるか。選択肢は大きく(1)従来関係を維持(2)連合解消(3)統合参加―の三つがある。
日産はルノーと互いに独立性を尊重し対等な関係でシナジー創出を図ることを基本理念にしており、従来の連合関係を維持したい意向だ。三菱自も同様で、益子会長は「統合に参加することはないだろう」と話す。
一方、ルノーは2018年初から仏政府の意向もくみ、日産会長を兼務していたカルロス・ゴーン被告が主導し日産との経営統合を目指してきた。ルノーでゴーン被告の後任のスナール会長はその考えを引き継ぎ、4月には西川社長に経営統合を提案した。
これまでのスナール会長の言動を考慮すれば、ルノーがFCAと統合すれば、次のステップとして「日産・三菱自に参加を求めてくるだろう」とSBI証券の遠藤部長は見立てる。日産とルノーは連合解消はあり得ないとの考えでは一致するが、関係維持と統合参加とで意見が対立する可能性がある。
日産は資本関係ではルノーに対し弱いが、実力値で上回り交渉力を確保してきた。しかし今後、その力が保てなくなる懸念がある。3社連合では販売台数1075万台の5割超を日産が占めるが、FCAが加わると比率は36%まで下がる。三菱自を足しても44%に留まり、規模の面でも連合での力が弱まる。
また日産の発言力の源だった収益力が衰えている。ゴーン被告の「負の遺産」(西川社長)という米国事業が足を引っ張り、19年3月期連結の当期利益は前期比57・3%減の3191億円に落ち込み、20年3月期は同46・7%減の1700億円に沈む見通し。
ルノーとの「RAMA」と呼ぶ企業間協定の存在も見逃せない。RAMAには「経営判断にルノーによる不当な干渉を受けた場合、日産の判断でルノー株を買い増す権利を有する」「日産の取締役会決定事項について、株主総会でルノーは反対できない」などの規定があり、日産の独立性を守る盾になってきた。
しかし経営統合で契約相手がルノーから統合会社“ルノーFCA”に切り替われば協定が無効になったり、規定変更を余儀なくされたりする懸念がある。
日産・三菱自がルノーとFCAの経営統合から距離を保ち、独立・対等な関係を維持できるか楽観視できない。状況次第では統合参加を拒否し立場を弱くするよりも、参加を決断し、その中で主体的に独立性を確保する道が、ベストではないがベターな選択肢となる可能性もある。
ルノーとFCAの統合から得られるメリットを最大化するため、日産・三菱自は4社連合で最適なポジションを獲得できるか。今後、駆け引きが激しくなりそうだ。
(取材・後藤信之、渡辺光太、山岸渉)
「FCAの北米での存在感は圧倒的。欧州中心のルノーにとってなかなか良いパートナーだ」―。FCAの自動車部品部門マニエッティ・マレリを5月に買収したカルソニックカンセイ幹部はこう指摘する。
ルノー・FCAの組み合わせで特徴的なのは主力地域や車種ラインアップで重複が少ない点だ。ルノーは欧州、ロシアを主力地域とするのに対し、FCAは北米や南米で強い。車種はルノーが中小型車を中心とする一方、FCAはスポーツ多目的車(SUV)やピックアップトラック、高級車で存在感を発揮する。ルノーは電気自動車(EV)、FCAは自動運転と先進分野で注力ポイントが異なる点も見逃せない。
乗用車とピックアップトラックでは部品仕様が異なり共通化は望めないなど難点もある。だが地域、車種、先進分野で相互補完しながら、両社で約870万台に達する販売規模を生かし調達などでシナジーを発揮できる潜在性はある。「悪くない組み合わせ」とみる業界関係者は多い。
ただ統合効果を最大化する上で「パズルのピースが欠けている」と遠藤功治SBI証券企業調査部長は指摘する。最後のピースと期待されるのが日産と三菱自だ。地域展開では日産が強い中国、三菱自が存在感を示す東南アジアもカバーできるようになる。EVやプラグインハイブリッド車(PHV)など電動技術にも厚みが出る。
FCAがルノーに示した統合案の枠組みには日産、三菱自は含まれないが、FCAは両社とも「連携していく」との考えを示した。ルノーのジャンドミニク・スナール会長も「企業連合の枠組みで実現する必要がある」と関与を求める。日産幹部は「FCAは日産や三菱自の技術がほしいのだろう」と推測する。
日産、独立・対等こだわる
29日、来日したルノーのスナール会長とティエリー・ボロレ最高経営責任者(CEO)が日産の西川広人社長兼CEO、三菱自の益子修会長兼CEOらに1時間40分ほどFCAとの統合について説明した。ルノーとFCAの統合が実現すれば、4社の販売は1500万台を超え世界トップに躍り出る。
西川社長は「連合の間口が広がるのは非常にポジティブ。日産の利益につながるか細かくみていきたい」と前向きに評価した。「電動化など自動車業界が変革期にある中、戦える集団になる」(日産幹部)との声も上がる。
益子会長は「当社が積極的に関わっていくかは検討を要する」と慎重姿勢もみせるが、ルノーとFCAの統合に日産・三菱自が関与していく方向にあることは間違いない。焦点はそれがどのような形になるか。選択肢は大きく(1)従来関係を維持(2)連合解消(3)統合参加―の三つがある。
日産はルノーと互いに独立性を尊重し対等な関係でシナジー創出を図ることを基本理念にしており、従来の連合関係を維持したい意向だ。三菱自も同様で、益子会長は「統合に参加することはないだろう」と話す。
一方、ルノーは2018年初から仏政府の意向もくみ、日産会長を兼務していたカルロス・ゴーン被告が主導し日産との経営統合を目指してきた。ルノーでゴーン被告の後任のスナール会長はその考えを引き継ぎ、4月には西川社長に経営統合を提案した。
「4社統合」提案も
これまでのスナール会長の言動を考慮すれば、ルノーがFCAと統合すれば、次のステップとして「日産・三菱自に参加を求めてくるだろう」とSBI証券の遠藤部長は見立てる。日産とルノーは連合解消はあり得ないとの考えでは一致するが、関係維持と統合参加とで意見が対立する可能性がある。
日産は資本関係ではルノーに対し弱いが、実力値で上回り交渉力を確保してきた。しかし今後、その力が保てなくなる懸念がある。3社連合では販売台数1075万台の5割超を日産が占めるが、FCAが加わると比率は36%まで下がる。三菱自を足しても44%に留まり、規模の面でも連合での力が弱まる。
また日産の発言力の源だった収益力が衰えている。ゴーン被告の「負の遺産」(西川社長)という米国事業が足を引っ張り、19年3月期連結の当期利益は前期比57・3%減の3191億円に落ち込み、20年3月期は同46・7%減の1700億円に沈む見通し。
ルノーとの協定、無効・変更の恐れ
ルノーとの「RAMA」と呼ぶ企業間協定の存在も見逃せない。RAMAには「経営判断にルノーによる不当な干渉を受けた場合、日産の判断でルノー株を買い増す権利を有する」「日産の取締役会決定事項について、株主総会でルノーは反対できない」などの規定があり、日産の独立性を守る盾になってきた。
しかし経営統合で契約相手がルノーから統合会社“ルノーFCA”に切り替われば協定が無効になったり、規定変更を余儀なくされたりする懸念がある。
日産・三菱自がルノーとFCAの経営統合から距離を保ち、独立・対等な関係を維持できるか楽観視できない。状況次第では統合参加を拒否し立場を弱くするよりも、参加を決断し、その中で主体的に独立性を確保する道が、ベストではないがベターな選択肢となる可能性もある。
ルノーとFCAの統合から得られるメリットを最大化するため、日産・三菱自は4社連合で最適なポジションを獲得できるか。今後、駆け引きが激しくなりそうだ。
(取材・後藤信之、渡辺光太、山岸渉)
日刊工業新聞2019年5月31日