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「T20」が提言するWTO機能回復のポイントとは?

【連載(3)首脳会合だけじゃない「G20」】木村福成慶大教授に聞く
 G20ならぬ「T20」という枠組みをご存じか。シンクタンク関係者で構成されるG20関連グループのひとつで、政策課題別に10のタスクフォースで議論を重ねている。そのひとつ「貿易・投資とグローバル化」の筆頭共同議長を務める慶応義塾大学の木村福成教授に今回のG20(主要20カ国・地域)会議の焦点のひとつである世界貿易機関(WTO)改革やデータガバナンスをめぐる議論の行方を展望してもらった。

強い危機感を共有


 ーこれまで「T20」として重ねてきた議論の成果をG20会議に先立って政策提言としてまとめられたとか。特徴はどこにありますか。

 「世界の貿易制度は保護主義の台頭やデジタル貿易といった新たな課題に十分に対処できていないのが実情です。我々のタスクフォースでは、交渉の場としてのWTOの再活性化ともに、紛争解決機能を復活・強化するための制度改革やデータの自由な流れを促進するためのバランスある国際ルールのあり方について検討を重ねてきました」

 「まず、提言の出発点として、世界の通商秩序の基盤として保護主義の抑制やグローバルな経済発展に貢献してきたWTOの多角的自由貿易体制が根底から揺らぎつつあることへの強い危機感があります。その上で、WTOの機能回復に向けた改革案を提示しています」

 ーT20には米国の代表も参加していますが、認識は一致しているのですか。

 「ええ。彼ら・彼女らはホワイトハウスの意見を代弁しているのではありません。独立した立場として主張できるかはシンクタンクの存在意義にも関わります」

 ー交渉機能の回復をめぐってはどのような案を示しているのですか。

 「交渉方式の柔軟化です。発足当初のWTOはすべての交渉テーマについて一括して合意を目指す方式が採用されてきましたが、その後、早期に合意できるテーマのみ切り離す方針に転換しました。この結果、貿易円滑化協定が採択されましたが、その他の交渉テーマについてはマルチ(多国間)のレベルでは合意に至っていません。こうした状況を踏まえると『プルリ交渉』と呼ばれますが、志を同じくする複数国で分野を限定した交渉を積極推進すること、マルチであっても異なる達成時期を設けることなども考えられます」

上級委員会の存続を


 ーもうひとつの焦点である紛争解決制度についてはどう考えますか。米国は上級委員会(二審制の上級審)がWTO協定で加盟国が合意した権限・手続きを逸脱していると主張して、上級委員の任命を拒否している結果、機能不全が顕在化しています。

 「トランプ政権発足以降の一方的な保護主義的な措置による案件が今後、上訴される見通しであることを踏まえると、米国が果たして上級委員会を存続させようと考えているのか見通せません。一方で、WTOの紛争解決機能を最も利用しているのは他ならぬ米国なのです。どのような改革をどのようなスピード感で進めるか、具体策についてはT20の研究者の間で必ずしも意見一致しているわけではありませんが、上級委員会を存続させるべきという点では強い合意がみられました」

 ー2018年のG20ブエノスアイレス・サミットの首脳宣言では、WTOの機能改善のため必要な改革を支持するとの合意がなされています。今回のG20サミットでは、この問題についてどこまで踏み込めるのでしょうか。

 「先進国だけでなく、新興国や途上国も参加するG20は難しい会合です。ルールに基づく国際経済秩序の基盤としての機能が効果的に発揮されるための、建設的な議論が行われ、その意義が、たとえ前回同様の表現ぶりであっても(宣言に)何らかの形で盛り込まれれば、一定の成果と言えるでしょう」


フリーフローデータに議論の起点を


 -デジタルデータのルールづくりでは日本の主導力にどう期待しますか。日本は自由で公正かつ安全で信頼性の高いデータ流通(DFFT)という概念を提唱し、議論を喚起したい構えです。

 「まずはG20各国の間で、議論の起点をフリーフローデータに置けるかどうかがポイントと見ています。『信頼性』とは何なのか。当然、こうした議論は出てくるでしょうし、これに対し(日本が)どのようなロジックで説明するのかは個人的にも注目しています。一方で、起点が定まれば、自由なデータ流通を促進する施策や社会的経済的な懸念を和らげるための施策がおのずと明確になってくる。データはまさに国家戦略であり、自国の産業育成、あるいは基本的人権と位置づけられる個人情報保護の観点など各国がそれぞれのアプローチをしていますが、同じ方向を向いて建設的な議論ができるかどうかです」

 「一方で、フリーフローデータを支える政策を評価する論理的な体系も必要です。新興国では、厳格な規制を設けつつも技術的にはこれに対応できていないケースも散見されます。こうした問題についても知見を蓄積していくことはG20の役割のひとつではないでしょうか」
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
「G20」連載、次回は「データ覇権主義に抗う」です。

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