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地元製造業の進出相次ぐ、構想20年超の「神戸医療産業都市」が実現した成果

オープンイノベーションの推進による画期的な製品開発などの相乗効果に期待
地元製造業の進出相次ぐ、構想20年超の「神戸医療産業都市」が実現した成果

伸縮性歪みセンサー「シーストレッチ」(バンドー化学)

 日本最大級のバイオメディカルクラスターに成長した神戸医療産業都市(KBIC、神戸市中央区)で、地元製造業による医療分野への進出が相次いでいる。神戸市はKBICで医療分野の研究開発に取り組む企業に税制優遇や補助金などのインセンティブを与えており、こうした施策が異業種の参入意欲を引き出しているようだ。今後、オープンイノベーションの推進による画期的な製品開発など相乗効果が期待される。(文=神戸・中野恵美子)

内外352者進出


 構想開始から20年以上が経過したKBICには現在、中小・ベンチャー企業から大手製薬会社に至るまで、国内外352社・団体(2019年4月末現在)の医療関連企業・団体が進出。雇用確保と神戸経済の活性化、アジアの医療技術向上への貢献など、所期の目的を達成しつつある。

 「神戸市の支援を受け欧州で開かれた医療関連の展示会にも出展でき、試作開発の受注につながった」と手応えを語るのはトーカロ営業本部の桑村壽氏。同社は溶射など表面処理加工を手がけ、17年8月に神戸市東灘区からKBIC内に本社を移転。医療分野の研究室を設け、電気メスに体内組織が付着するのを防ぐ、透明の薄膜などを開発する。

専門家の助言


「神戸市を通じて専門家の紹介を受け、薬事申請の手続きなど助言を得られた」と話すのは自動車用伝動ベルト大手、バンドー化学の畑克彦常務執行役員。伝動ベルト開発における素材の配合技術などを応用し、身体に貼り付け、伸縮度合いを検知するフィルム状センサーを開発した。

 神戸大学医学部などと共同研究を進め、病院やスポーツ用品メーカーなどに試験販売しており、20年末までに事業化する方針だ。5月には整形外科向けの医療機器を販売する事業者を105億5000万円で買収し、販路開拓をもくろむ。

 異業種からの相次ぐ参入は、KBICの知名度向上を裏付ける動きで、新たな投資を呼び込み、オープンイノベーション推進にも貢献している。

 潤滑油などの化学品を開発するMORESCOは、KBIC内に本社を構え、18年11月に1億円を投じて新設した医療分野の研究開発実験室を稼働した。化学品の合成技術を応用し、創薬に有効な合成材料を生成している。複数の大学と連携して今後、製薬会社に提案していく。坂根康夫最高技術責任者(CTO)は「大学に加えエンドユーザーに関する知見を持つ事業者とも協力していく」と話す。

相乗効果創出


 阪神・淡路大震災で大きな被害を受けた神戸の経済を立て直すため、震災復興事業として始まった神戸医療産業都市構想。クラスター形成が進み、雇用者数は右肩上がりに増加。KBICの市内経済効果は05年の約400億円から15年には1500億円超に膨らむなど大きな枠組みに育った。集積した事業者が多彩な専門分野の知見を持ち寄ることが相乗効果創出のカギを握る。
日刊工業新聞2019年5月10日

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